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 平成 7年版 犯罪白書 第4編/第5章/第4節/2 

2 調査結果

(1) 調査対象者の属性等
 IV-18図は,平成5年に判決の言渡しを受けた調査対象者の年齢層別構成比を,各事件別に見たものである。覚せい剤事件では20歳代,30歳代及び40歳代の者がそれぞれ30%前後を占めている。その他の事件では,麻薬事件では20歳代の者が50%を超え,20歳代の者が占める比率は,大麻事件及びあへん事件において更に高くなっている。

IV-18図 年齢層別構成比(平成5年)

 なお,調査結果から調査対象者に占める女子の比率を見ると,各年次ともに麻薬事件が最も高く,10%台から20%台で推移しているのに対し,覚せい剤事件はおおむね10%強,大麻事件は7%前後で推移している。あへん事件は平成4年に女子が20%を示したほかは,すべて男子で占められている。
 IV-6表は,各事件ごとに,調査対象者の国籍につき,日本と外国の構成比の推移を見たものである。外国籍者の占める比率は,あへん事件において最も高く,次いで,麻薬事件,大麻事件,覚せい剤事件の順となっている。あへん事件は,そのほとんどが外国籍の者により占められており,また,近年,麻薬事件においても外国籍の者が過半数を占めている。
 IV-7表は,各事件ごとに,調査対象者の前科の有無を見たものである。
 同種前科(薬物四法違反の罪,刑法第2編第14章の罪又は麻薬特例法違反の罪のいずれかの前科をいう。)のある者の比率は,覚せい剤事件では61.1%である。他の事件の中では,大麻事件が最も高く9.9%であり,次いで,麻薬事件の8.9%となっている。あへん事件では,同種前科のある者はいなかった。
 異種前科(同種前科以外の前科をいう。)のある者の占める比率は,覚せい剤事件では67.4%である。他の事件の中では,大麻事件が最も高く25.2%であり,次いで,麻薬事件17.1%,あへん事件5.9%の順となっている。

IV- 6表 日本人・外国人別人員(平成元年〜6年)

IV-7表 同種前科・異種前科表有する人員(平成元年〜6年の累計)

IV-19図 暴力団と関係を有する者の総数に占める比率の推移(平成元年〜6年)

 IV-19図は,事件別に,調査対象者の中で暴力団と関係を有する者(幹部,構成員及び準構成員をいう。)の総数に占める比率の推移を見たものである。各年次とも,覚せい剤事件における比率は20%台から30%台であり,高い。一方,他の事件を見ると,大麻事件が4%台から9%台の間であり,次いで,麻薬事件が0%から7%台となっており,あへん事件では暴力団に関係する者はいなかった。覚せい剤事件における暴力団と関係を有する者の占める比率の推移を見ると,平成元年から3年では30%台であったものが4年以降は20%台となっており,やや低下する傾向を示している。
 調査対象者につき職業の有無を見たものが,IV-8表である。
 総数で見ると,覚せい剤事件では,無職者が50.6%となっている。その他の事件では,麻薬事件における無職者の比率が最も高く42.2%であり,次いで,あへん事件32,4%,大麻事件26.1%の順となっている。

IV- 8表 男女別・職業の有無別人員(平成元年〜6年の累計)

(2) 事犯の態様等
 IV-9表は,各事件につき,違反態様別の人員を営利事犯(営利目的のある事犯をいう。)・非営利事犯(営利目的のない事犯をいう。)別に見たものである。
 なお,覚せい剤事件において使用事犯の数が極めて少ないのは,非営利事犯の調査対象を取扱い覚せい剤1g以上のものに限定したことによる。

IV-9表 罪名別・違反態様別人員(平成元年〜6年の累計)

 事件別に営利事犯の占める比率を見ると,覚せい剤事件では総数の16.6%となっている。その他の事件では,麻薬事件(総数の27.2%)が最も高く,次いで,あへん事件(同26.5%),大麻事件(同4.6%)の順となっている。
 違反態様中,輸入事犯は,大麻事件(371人)が最も多く,次いで,麻薬事件(144人),覚せい剤事件(43人),あへん事件(17人)の順となっている。
 各事件を通じて薬物の輸入手段を見ると,各年次とも,航空機を利用した隠匿・携帯が最も高い比率を示し,平成元年から6年までの累計で385人(輸入事犯人員総数の67.0%)を占めているが,4年以降その比率が低下傾向を示している。また,輸入手段を空路(航空機)と海路(船舶)とに分けると,空路(航空機)によるものが84.2%を占めている(巻末資料IV-6表参照)。
(3) 科刑状況
 IV-10表は,各事件ごとに,営利事犯・非営利事犯別の実刑率(有期懲役に処された者のうち実刑に処されたものの比率をいう。)の推移を見たものである。

IV-10表 罪名別・営利非営利別実刑率(平成元年〜6年)

 覚せい剤事件全体の実刑率は,最近低下する傾向を示しており,平成元年は77.1%であったものが,5年及び6年は70%前後となっている。一方,その他の事件を見ると,あへん事件全体の実刑率は,対象人員が少ないためか起伏が激しい。大麻事件全体の実刑率は,3年まで上昇傾向にあったが4年以後下降しており,麻薬事件全体の実刑率は全般的に上昇傾向にある。
 ちなみに,司法統計年報によれば,平成5年に地方裁判所において有期懲役又は有期禁錮の言渡しを受けた者の実刑率は,総数では40.2%,特別法犯では35.8%となっており,これと比べると,あへん事件及び大麻事件の実刑率は低い。
 営利事犯・非営利事犯別に実刑率を見ると,あへん事件における非営利事犯の実刑率は,平成4年の42.9%から低下傾向にあり,一方,営利事犯はいずれも実刑に処されているが,すべて輸入事犯である。大麻事件の非営利事犯の実刑率は,2年の15.8%をピークに以降低下し,営利事犯の実刑率も5年以降低下している。麻薬事件の非営利事犯では,元年及び2年は10%以下であったが,3年以降は20%弱で推移し,営利事犯ではおおむね80%台となっている。覚せい剤事件における非営利事犯の実刑率は,2年まで70%台であったが,3年以降は60%台で推移し,営利事犯の実刑率は95%前後で推移している。いずれの事件においても,営利事犯の実刑率は非営利事犯に比べて相当高くなっている。
 調査結果から,覚せい剤事件の態様別・年次別実刑率を見ると,非営利事犯では,譲渡しの実刑率が高く,70%台で推移している。所持は,平成元年及び2年において70%台であったものが,3年以降は60%台で推移しており,譲受けも元年及び2年では50%台であったものが,3年以降は40%台で推移している。輸入は人員数が少ないが,元年から6年までを通じての実刑率は57.1%である。他方,営利事犯では,譲渡し,所持,譲受け共に,おおむね実刑率が90%を超えており,輸入はすべて実刑に処されている。
 IV-11表は,覚せい剤事件中,調査対象人員がわずかである使用事犯と製造事犯を除いた7,678人につき,態様別及び営利・非営利別に分類して言渡し刑期別構成比を見たものである。
 全体としては,1年6月を超え2年以下の懲役が最も多い。態様別に見ると,所持においては,営利の場合3年を超え4年以下が28.5%と最も多く,非営利では1年6月を超え2年以下が36.3%と最も多い。譲受けにおいては,営利の場合3年を超え4年以下と4年を超え5年以下がそれぞれ21.1%と最も多く,非営利では1年を超え1年6月以下が42.2%と最も多い。譲渡しにおいては,営利の場合3年を超え4年以下が27.1%と最も多く,非営利では1年6月を超え2年以下が32.9%と最も多い。輸入においては,営利の場合7年を超え10年以下が37.9%と最も多く,非営利では1年6月を超え2年以下が42.9%と最も多くなっている。

IV-11表 覚せい剤事犯における違反態様別・刑期別構成比(平成元年〜6年の累計)

 IV-20図は,各事件につき,平成元年から6年までの営利事犯における罰金併科率(罰金併科を言い渡された者の営利事犯人員総数に占める比率)の推移を見たものである。覚せい剤事件は,元年の86.9%以降80%台で推移しており,6年は80.0%となっている。麻薬事件は,4年の63.3%を底に,その後上昇しており,6年は100%となっている。大麻事件は,40%台と70%台の間で推移している。なお,大麻事件については,元年には営利事犯がなかった。あへん事件は,営利事犯の人員は少なく,元年と2年には該当事犯がなく,3年以降はすべてが輸入事犯であり,罰金併科率は3年から6年まで毎年100%となっている。

IV-20図 営利事犯における罪名別罰金併科率の推移(平成元年〜6年)

 IV-21図は,平成元年から6年までに覚せい剤事件の営利事犯で有罪判決を受けた1,275人につき,併科された罰金額別の人員を見たものであるが,10万円を超え20万円以下の罰金刑を併科された者が251人(総数の19.7%)と最も多くなっており,次いで,20万円を超え30万円以下が235人(同18.4%),30万円を超え50万円以下が202人(同15.8%)等の順になっている。最も高額の罰金を併科された者は,500万円を超え1,000万円以下の1人である。また,罰金を併科されなかった者は172人(同13.5%)となっている。
 なお,年次別の罰金額の分布状況は,平成元年,2年においては10万円を超え20万円以下の比率が最も高かったが,3年においては30万円を超え50万円以下の比率が最も高く,4年以降は20万円を超え30万円以下の罰金刑の比率が最も高くなっている。また,10万円以下の罰金の比率も低下しており,罰金額も次第に高くなる傾向が見られる。

IV-21図 覚せい剤営利事犯における併科罰金額別人員(平成元年〜6年の累計)