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2 逃亡犯罪人の引渡し (1) 我が国から外国に対する逃亡犯罪人引渡し請求
逃亡犯罪人の身柄を確保する手段として,外交ルートにより犯罪人の引渡しを受ける方法があり,検察庁が依頼する場合と警察等が依頼する場合があるが,いずれも,外務省を経由して引渡し請求が外国に伝えられる。なお,逃亡犯罪人の任意の帰国や外国当局による退去強制によりその身柄が確保できる場合もある。 犯罪人の引渡しに関して我が国が締結している二国間条約は,「日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約」(以下「日米条約」という。)だけであり,同条約は,一定の要件の下に両国に対し相互に犯罪人を引き渡すことを義務づけている。 日米条約が定めている犯罪人引渡しを求める場合の要件は, [1] 当該犯罪人が犯したとする犯罪が,双罰性を備えており,日米条約に定められている犯罪であること(同条約2条) [2] 対象者が被疑者又は被告人である場合,当該犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由のあること(同条約3条) [3] 政治犯罪,被請求国における訴追,時効等の不引渡し事由に該当しないこと(同条約4条から6条まで) 等となっている。 我が国がアメリカ以外の国に対し犯罪人の引渡しを求める場合の要件や手続は,相手国の国内法令に従うことになる。 検察庁からの依頼により,我が国が外国に対する引渡し請求を行う場合には,通常,検察庁→法務省→外務省→在外日本公館→相手国の外務・司法当局という経路をたどり,警察からの依頼により行う場合には,通常,都道府県警察→警察庁→外務省→在外日本公館→相手国の外務・司法当局という経路をたどる。 最近10年間に,検察庁の依頼により我が国が外国から引渡しを受けた逃亡犯罪人の数は,II-37表のとおり,合計3件3人である。内訳を見ると,平成元年に,詐欺・有印私文書偽造等事件により第一審で懲役の実刑判決を言い渡され控訴審で保釈中に逃亡していた者1件1人についてドイツから,3年には,所得税法違反事件の逃亡被疑者1件1人についてオーストラリアから,5年には,法人税法違反事件の逃亡被疑者1件1人についてアメリカから,それぞれ引渡しを受けている(法務省刑事局の資料による。)。 II-37表 逃亡犯罪人引渡し人員 このほか,警察の依頼により我が国が外国から逃亡犯罪人の引渡しを受けた例としては,平成4年に,詐欺・有印私文書偽造等事件の逃亡被疑者1件1人についてイタリアから,5年には,詐欺・有印私文書偽造等事件の逃亡被疑者1件1人についてアメリカから,6年に,麻薬取締法違反事件の逃亡被疑者1件1人についてブラジルから,それぞれ引渡しを受けたものがある(警察庁からの回答による。)。(2) 外国から我が国に対する逃亡犯罪人引渡し請求 外国から我が国に対し外交ルートにより逃亡犯罪人の引渡し請求があった場合の犯罪人引渡しの要件や手続を定めているのが,逃亡犯罪人引渡法(昭和28年法律第68号)である。 同法2条は,政治犯不引渡しの原則,双罰性の原則,一事不再理の法理等の観点から,引渡し制限事由を定めており,これに該当する場合には,逃亡犯罪人を引き渡してはならないとされている。 日本国内にいる逃亡犯罪人につき外国から引渡し請求があった場合, [1] 外務大臣によるいわゆる相互主義の保証の有無等についての審査と関係書類等の法務大臣への送付 [2] 法務大臣による所要の審査と東京高等検察庁検事長に対する審査請求の命令 [3] 拘禁許可状による逃亡犯罪人の拘禁(なお,請求国において逮捕状が発布されているなどの場合には,拘禁に先立って仮拘禁することができる。) [4] 東京高等検察庁検察官による審査請求 [5] 東京高等裁判所による引渡しの可否についての審査と引き渡すことができる場合に該当する旨の決定 [6] 法務大臣による引渡しの相当性についての判断と東京高等検察庁検事長に対する引渡しの命令 等といった手続を経て,逃亡犯罪人の引渡しが実行される。 東京高等裁判所の審査の結果,審査請求が不適法であるため却下された場合や,引渡し制限事由に該当するため引き渡すことができないとの決定がなされた場合等においては,拘禁されている逃亡犯罪人は釈放される。 最近10年間に我が国が外国に引き渡した逃亡犯罪人は,II-37表のとおりである。合計で13件15人であり,相手国は,アメリカが10件12人と,大部分を占めている(巻末資料II-17表参照)。平成6年中には,我が国は,アメリカから3件3人,ドイツから1件1人の逃亡犯罪人の引渡しの請求を受け,そのうちアメリカからの請求に係る1件1人については,同年中に身柄の引渡しを完了している(法務省刑事局の資料による。)。 |