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 平成 6年版 犯罪白書 第4編/第4章/第3節/2 

2 通訳人の確保と正確な通訳の実現

 捜査段階においては,検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,通訳又は翻訳を嘱託することができることとされ(刑事訴訟法223条1項),警察,検察庁等関係各機関では,それぞれ通訳人を選任しているが,来日外国人による犯罪の増加とその国籍の多様化により,捜査段階で必要とされる言語は多種に及んでいる。
 IV-24図は,平成4年度(会計年度)に,全国検察庁において利用した通訳人の数を見たものである。これによれば,平成4年度に,全国検察庁において利用した通訳人の数は,834人に上っており,通訳言語も多岐にわたっている。特に,中国語,英語,タイ語,韓,国・朝鮮語,スペイン語,ペルシャ語,タガログ語,ポルトガル語等の通訳人を利用する回数が多くなっている。

IV-24図 検察庁言語別通訳人数

 ところで,通訳人の選任に関しては,いわゆる少数言語の通訳人の確保に困難を伴うこと,地方都市にも外国人犯罪が拡散する傾向を見せているが,地方都市においては,大都市に比べて通訳人の数が足りないため,その確保に困難を来していることなどが問題となっている。
 そこで,法務省・検察庁においては,有能な通訳人を確保するため,[1]全国版の通訳人名簿の作成・配布と,名簿の内容をデータベース化した「通訳人名簿データベースシステム」への移行,[2]通訳謝金の充実等の措置が講じられ,また,正確な通訳の実現のためには,刑事手続や法律用語について理解を深める必要があることから,[3]刑事手続や通訳に当たっての留意事項尋を登載した「捜査と通訳」と題する通訳人マニュアルや「法律用語対訳集」の作成・配布,[4]検察官と通訳人の意見交換会の開催等が行われている。
 さらに,要通訳事件等の国際関係事犯に対応するため,[5]東京,大阪,名古屋,福岡,横浜,千葉の各地方検察庁に,通訳人の確保等をはじめ国際関係事犯の捜査やその資料の収集整備等に関する事務を担当する国際捜査課を設置したほか,[6]各種会同等の開催,[7]検察庁職員の語学研修の実施等の方策を講じている。
 一方,裁判所では,日本語を用いることとされ(裁判所法74条),国語に通じない者に陳述させる場合には,通訳人に通訳をさせなければならないとされているが(刑事訴訟法175条),裁判所においても,前述のとおり,要通訳事件が増加するとともに,少数言語についての通訳人が不足していることから,有能な通訳人の確保と通訳内容の正確性の担保等の問題がある。
 なお,最近3年間の地方裁判所・簡易裁判所による通常第一審における通訳人の付いた外国人被告人の終局人員について,法廷通訳等をめぐり紛議を生じた人員を紛議の事由別に見たものが,IV-11表である。

IV-11表 通訳人の付いた外国人の法廷通訳等をめぐる紛議の事由別終局人員

 平成5年は,法廷通訳等をめぐり紛議を生じたのは43人で,このうち捜査段階での通訳の正確性を事由として紛議が生じたのが16人,公判での通訳の正確性を事由として紛議が生じたのが7人となっている。
 そこで,裁判所においては,有能な通訳人の確保とその能力の向上を図るため,[1]高等裁判所単位の通訳人名簿の作成・備付け,[2]通訳料の改善,[3]実務的マニーアルとして,刑事手続の概要や法律用語の対訳等を登載した法廷通訳ハンドブックの作成,[4]裁判官等と法廷通訳の経験者による法廷通訳研究会の開催等の措置を講じているほか,通訳人に我が国の刑事裁判手続を理解させるため,[5]勾留質問手続及び公判手続の概要を説明した説明ビデオの作成等の方策を講じている。