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2 女子少年院での処遇の実情 (1) 女子少年院
女子のための少年院には,全国に愛光女子学園,榛名女子学園,交野女子学羨,貴船原少女苑,筑紫少女苑,沖縄女子学園,青葉女子学園,紫明女子学院及び丸亀少女の家の9施設があり,そのほかに,関東医療少年院及び京都医療少年院にも,医療措置の必要な女子を男子と別の区画を設けて収容している。 (2) 処遇の重点 女子少年院の処遇は,女子の特質に配慮し,家庭的で明るく和やかな雰囲気の中で,基本的な生活習慣の形成,情緒の安定,個別的問題性などに着目して行われている。少年院の運営は,全国的な運用基準(第3編第2章第4節参照)に基づいて行われており,男女間に運用上の大きな差異はない。本項では,女子に特徴的な問題とその処遇を中心に見ていく。 ア 個別的問題 少年院の運営は,各施設の特色を生かした基本的な処遇計画に基づいて行われるが,少年一人一人に対する処遇は,その問題性や必要性を考慮し最も適切かつ有効と考えられる教育目標,教育内容等を記載した個別的処遇計画に沿って進められる。この教育目標の設定の背景となった問題点を,法務総合研究所の特別調査(以下「特別調査」という。特別調査の対象者等については本章第6節2参照)により,男女別に見たのが,IV-25表である。男子では基本的生活習慣の不足,窃盗癖,付和雷同的な態度・行動などの生活習慣や態度に関する問題の比率が女子より高いのに対して,女子では薬物濫用,保護者に対する少年の態度,性・異性問題などの比率が男子より高く,薬物,家族関係及び性が処遇上重要な問題点として挙げられている。 IV-25表 少年院在院者の個人別教育目標の設定の背景となった問題点 イ 非行性・問題性に対応した指導(ア) 親子・家族問題の調整指導 女子は,家庭からの離脱や逃避が非行に転落する契機になっている場合が多い。IV-26表は,平成3年における新収容者の本件非行時の居住状況を男女別に見たものである。女子では家族と同居の者が半数に満たず,同せい,不良者の居所,不定及び浮浪の者が3人に1人となっており,家庭や家族関係に問題のあることがうかがわれる。 女子少年院では,保護者と少年の相互理解を深めさせるため,家庭的な雰囲気の中で保護者を含めた指導が行われている。また,少年の家族に対する態度や認識を改めさせるため,内省指導,役割書簡法(家族への架空の手紙のやりとりの中で家族の立場や心情を洞察させる。)などの処遇技法が活用されている。 IV-26表 少年院新収容者の本件時の居住状況 (イ) 性教育特別調査の結果によると,女子の大部分に性体験があり,5人に1人は妊娠中絶経験を有している。また,売春ないしその類似行為の経験者は45%を占め,初めての性体験が強姦の被害者である者は13%に上る。性の問題は,生活指導の中心的な課題として教育活動全体の中で取り上げられているが,取り分け,性にかかわる問題群別指導の中で,映画,VTRなどの視聴覚教材を利用した指導やサイコドラマ,集団討議などの心理療法を活用した教育が集中的に行われている。特に性にかかわる問題が不良交友などを背景としていることに着目し,女性としての充実した生き方と望ましい異性観を養う指導に力が入れられている。 (ウ) 薬物濫用防止教育 特別調査の結果によると,女子在院者の薬物濫用者は,90%を超える(有機溶剤のみの経験者42.1%,覚せい剤のみの経験者2.2%,有機溶剤と覚せい剤両方の経験者47.6%)。薬物濫用防止教育は,少年院在院者に薬物濫用者が急増した昭和50年代から,年間指導計画に基づき計画的・継続的に実施されるようになった。IV-27表は,平成3年に全国女子少年院で実施された薬物濫用防止教育について見たものである。集団討議,視聴覚フォーラムなどの集団指導が主に行われているが,カウンセリング,ロールプレイング等の心理療法や個別面接指導なども組み込まれ,少年の具体的な問題に対応した指導が行われている。 IV-27表 女子少年院における薬物濫用防止教育の実施状況 IV-28表 女子少年院における院外教育活動実施状況 ウ 院外教育活動女子少年院では,地域社会の民間篤志家及び関係機関の積極的な協力を受けて教育活動が展開されている。また,社会の一員としての自覚や自立心を持たせるため,院外における教育活動が活発に行われている。IV-28表は,最近3年間における院外教育活動の参加人員を見たものである。 エ 職業補導 平成3年の少年院新収容者のうち,学生・生徒を除く女子の79.5%が無職であり,また,有職者のほとんどが接客業を中心としたサービス業に従事していたものである。女子少年院の職業補導は,調理,洋裁,編み物等家事に必要な知識と技能を指導する種目,事務,ワープロ等事務的職業技術を指導する種目,地場産業を取り入れた伝統工芸を指導する種目,農業・園芸等勤労の習慣を形成する種目,職業適性の発見,職業選択などの進路指導等を内容として行われている。IV-29表により,平成3年における女子少年院在院者の出院時の進路状況を見ると,販売店員やサービス業に就く者が40%を占め,事務系の職種,製品製造等の技能職種に就く者もあり,多様化している。しかしながら,就職先が確定しないまま出院し,帰住後家族や保護司の援助を受け調整を要する者は,家事従事者を含めおおむね20%を占め,女子少年の就職活動の現状はかなり厳しいものになっている。女子の役割意識の変化や社会参加などと関連して,女子少年院の職業補導や進路指導は現在転換期を迎えており,職種の多様化,雇用条件の変化等に対応した職業補導種目の選定や進路指導の見直しが進められている。 IV-29表 女子少年院在院者の出院時の進路 |