保護観察官は,保護観察終了時において,調査対象者に未解決の問題点があったとすればどのような点であったと考えているであろうか。IV一82表は,各調査対象者について,保護観察の終了時において問題点とされた事項(掲示されている問題点19項目の中から重複選択)のうち,比率の高い順に上位10位までを調査対象者の年齢層別に見たものである。なお,「問題点がない」とされた調査対象者は,仮出獄者では41.6%,保護観察付執行猶予者では45.5%であった。
問題点は,保護観察対象者特有の個人的問題から環境的問題に至るまで多岐にわたっているが,特徴的なことを述べることとする。
仮出獄者について見ると,調査対象者総数では,第1位が「貧困」(調査対象者総数中に占める比率20.0%),第2位が「病弱」(同18.0%)となっており,また,「貧困」,「病弱」共に60歳以上の高齢者が50代に比べて一層比率が高くなっている。なお,第3位以下については,「怠惰」,「飲酒」,「生活能力の欠如」,「失業」,「浪費」,「性格の偏り」,「薬物」,「かけ事」の順となっているが,これらのうち「生活能力の欠如」及び「性格の偏り」は,60歳以上の高齢者が50代に比べて比率が高い。
IV-82表 保護観察処遇上の問題点
次いで,保護観察付執行猶予者について見ると,調査対象者総数では,第1位が「病弱」(同22.5%),第2位が「貧困」(同15.5%)であり,仮出獄者の場合と順位が逆になっているが,「病弱」,「貧困」共に60歳以上の高齢者が50代に比べて一層比率が高くなっている。なお,第3位以下については,「飲酒」,「所在不明」,「借金」,「失業」,「怠惰」,「性格の偏り」,「頻回転職」及び「交友関係」の順となっているが,これらのうち「飲酒」,「性格の偏り」及び「頻回転職」は,60歳以上の高齢者が50代に比べて比率が高い。
以上のように,保護特別調査から見る限り,高齢保護観察対象者に対する処遇上の問題点は,仮出獄者,保護観察付執行猶予者共に,「病弱」,「貧困」である者の多いことが大きな特徴として挙げられる。また,このほか,仮出獄者では「生活能力の欠如」や「性格の偏り」という個々の資質上の問題点もあること,保護観察付執行猶予者では「性格の偏り」という資質上の問題点に加えて「飲酒」及び「頻回転職」という個々の行状上の問題点もあることが挙げられ,処遇上の難しさの一端がうかがわれる。
このように病弱や貧困であることなど,種々の問題を有する者を援助することが,高齢者に対する処遇課題となる。そこで,保護観察所においては,個々の問題に応じた個別処遇を基本として,例えば,保護観察所が自庁で援助を行うほか,更生保護会への委託,公共職業安定所や老人福祉機関等との連携の下での就職先確保や医療援助,生活保護,福祉施設への入所などについて努力が払われている。さらに,高齢化の進行に備えて処遇態勢の強化を図り,時代の要請に応じた適切な福祉サービスのあっせんや,対象者のニーズを的確に把握するための細かな配慮などに努めること,病弱である者に対する医療援助について矯正機関,地方更生保護委員会,更生保護会,福祉事務所,医療機関等と一層円滑な連携を深めることなどが推進されている。