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 平成 3年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/2 

2 実態調査から見た受刑者の特質

 特別調査のうち,実態調査の結果得られた受刑者の年齢群別の特質について述べる。
(1) 年齢・男女別・入所度数
 IV-28表は,調査対象者の調査時年齢を5歳刻みで男女別に見たものである。50歳以上は994人であり,そのうち60歳以上は182人である。男女別の構成比は,男子が94.2%(2,996人),女子が5.8%(185人)である。
 次に,調査対象者の入所度数を見ると,初入者1,614人,再入者1,567人で,再入者の入所度数は,IV-45図のとおりである。20〜34歳の若年群では入所度数2度が54.2%を,占めるのに対し,50歳以上の高年群では6度以上が51.3%を占め,かつ,その約半数が10度以上である。

IV-45図 再入者の入所度数

IV-29表 初入・再入,年齢群別に見た主な罪名別構成比

(2) 罪名・刑期
 IV-29表は,調査対象者の罪名を見たものである。初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて詐欺,殺人,横領・背任の構成比が高くなり,覚せい剤取締法違反,強姦の構成比が低くなる。50歳以上の高年群について構成比が高い罪名を見ると,初入者では詐欺16.9%,道路交通法違反15.9%,窃盗15.0%であり,これに殺人の10.1%が次いでいる。再入者では窃盗37.0%,覚せい剤取締法違反27.2%,詐欺9.9%の順で,殺人は1.4%である。
 IV-30表は,調査対象者の刑期を見たものである。刑期が比較的長い者は,再入者よりも初入者に多く,刑期が4年を超える者は,50歳以上の高年群初入者では11.8%,再入者では2.9%である。

IV-30表 初入・再入,年齢群別に見た刑期別構成比

IV-46図 犯行の動機

(3) 犯行態様
ア 犯行の動機
 IV-46図は,調査対象者の犯行の動機を見たものである。初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて「生活苦」の構成比が高くなり,「遊び」,「共犯者に誘われて」の構成比が低くなる。初入者では「怨念」,再入者では「出来心」の構成比が,年齢群が上がるにつれて高くなる。最も構成比が高いのは,50歳以上の高年群初入者では「その他」の30.0%,高年群再入者では「利欲」の24.7%であり,高年群初入者の犯行の動機は多様化していることがうかがえる。

IV-31表 初入・再入,年齢群別に見た窃盗の手口別構成比

イ 犯罪の手口
 主な罪名が窃盗である者及び同じく詐欺である者を対象として,手口及び加害金額を調査したところ,窃盗の手口はIV-31表,詐欺の手口はIV-32表のとおりである。

IV-32表 初入・再入,年齢群別に見た詐欺の手口別構成比

 まず,窃盗の手口を見ると,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて「万引き」の構成比が高くなり,「自動車・単車盗」の構成比が低くなる。
 また,年齢群が上がるにつれて初入者では「置き引き」,再入者では「すり」の構成比が高くなる。最も構成比が高いのは,50歳以上の高年群初入者では「万引き」の33.3%,高年群再入者では「空き巣ねらい」の13.9%である。
 次に,詐欺の手口を見ると,50歳以上の高年群初入者においては,「その他」が36.6%で,詐欺の手口の多彩なことをうかがわせ,「取り込み」詐欺,「代金」詐欺,「商品」詐欺,「保険金」詐欺の次が「無銭飲食」であるが,高年群再入者では,「無銭飲食」が26.8%で第1位である。

IV-47図 窃盗の加害金額,

ウ 加害金額
 窃盗の加害金額はIV-47図,詐欺の加害金額はIV-48図のとおりである。
 窃盗の加害金額を見ると,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて加害金額「10万円以下」の構成比が高くなり,「1,000万円以下」の構成比が低くなる。詐欺の加害金額では,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて「1,000万円を超える」の構成比が高くなり,50歳以上の高年群初入者では47.1%,高年群再入者では19.6%である。

IV-48図 詐欺の加害金額

(4) 初発被検挙年齢
 IV-49図は,調査対象者の初発被検挙年齢,すなわち非行又は犯罪があり初めて検挙された時の年齢を見たものである。初入者といえども,初発被検挙年齢が若年群(20〜34歳)で20歳未満が54.2%,同じく中年群(35〜49歳)で35歳未満が54.2%,同じく高年群(50歳以上)で50歳未満が59.0%もいる。最も構成比が高いのは,高年群初入者では「50〜54」歳の22.7%であり,高年群再入者では「20〜24」歳の30.5%である。
(5) 暴力組織との関係
 調査対象者の暴力組織との関係を見ると,年齢群が上がるにつれて,暴力組織との関係が全くな,い者の構成比が高くなり,50歳以上の高年群初入者では93.9%,高年群再入者では65.8%が暴力組織と全く関係がない。
(6) し癖等の有無
 IV-50図は,調査対象者のアルコール依存,ギャンブル癖及び覚せい剤依存の状況を見たものである。
ア アルコール依存
 アルコール依存者の構成比は,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて高くなり,「あり」と「ややあり」を合わせると,50歳以上の高年群初入者では29.3%,高年群再入者では38.1%である。各年齢群とも初入者よりも再入者の構成比が高い。
イ ギャンブル癖
 ギャンブル癖のある者の構成比を見ると,再入者は年齢群が上がるにつれて高くなるが,初入者は低くなる。各年齢群とも,初入者よりも再入者の構成比が高く,「あり」と「ややあり」を合わせると,50歳以上の高年群初入者では11.2%であるが,高年群再入者では34.2%である。
ウ 覚せい剤依存
 覚せい剤依存者の構成比は,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて低くなる。各年齢群とも,輛入者よりも再入者の方が高く,「あり」と「ややあり」を合わせると,50歳以上の高年群初入者では7.7%であるが,高年群再入者では32.3%である。

IV-49図 初発被検挙年齢

IV-50図 し癖等の有無

(7) 教育程度等
 調査対象者の教育程度を見ると,「義務教育未修了」の構成比は,50歳以上の高年群では14.1%で,20〜34歳の若年群の0.1%,35〜49歳の中年群の2.5%に比べ,はるかに高い。初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて「高校中退」の構成比は低くなる一方,高校卒業後更に進学した者の構成比は高くなり,高年群初入者では11.0%,高年群再入者では4.2%である。
 なお,調査対象者の知能指数は,年齢群が上がるにつれて,知能指数70未満の構成比が高くなり,80以上の構成比は低くなる。最も構成比が高いのは,初入者,再入省共に,20〜34歳の若年群では80〜89,35〜49歳の中年群では70〜79,50歳以上の高年群では59以下である。

IV-51図 入所前の家庭状況

(8) 入所前の生活状況
 ア 入所前の家庭状況
 IV-51図は,調査対象者の入所前の家庭状況を見たものである。初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて「妻(夫)子と同居」の構成比は高くなり,「親と同居」の構成比は低くなる。最も構成比が高いのは,50歳以上の高年群初入者では「妻(夫)子と同居」の47.1%であるのに対し,高年群再入者では「単身・住所不定」の32.6%である。
 イ 配偶者の有無
 配偶者の有無について見ると,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて「なし・未婚」の構成比は低くなり,「なし・死別」の構成比は高くなる。年齢群が上がるにつれて,初入者では「あり・同居」の構成比が高くなり,再入者では「なし・離別」の構成比が高くなる。50歳以上の高年群について入所前の配偶者の状況を見ると,IV-52図のとおりであり,高年群初入者では「あり・同居」が最も多く44.3%であるが,高年群再入者では「なし・離別」が最も多く42.2%である。

IV-52図 高年群の配偶者の有無

IV-53図 家族との関係

 ウ 家族との関係
 家族との関係について見ると,IV-53図のとおりであり,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて,「家族の困り者」の構成比が低くなる一方,「家族から既に見放されている」の構成比が高くなり,50歳以上の高年群初入者では12.4%,高年群再入者では28.6%である。また,年齢群が上がるにつれて,初入者は「家族に頼りにされている」の構成比が高くなるが,再入者は「一家離散」及び「天涯孤独」の構成比が高くなる。
(9) 帰住先
 調査対象者が予定している帰住先を見ると,初入者,再入者共に,年齢群が上がるにつれて,「父や母」の構成比が低くなり,「子供」,「更生保護会」の構成比が高くなる。「更生保護会」は,50歳以上の高年群初入者では13.3%,高年群再入者では37.7%である。