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 平成 3年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/1 

第3節 窃盗等5罪名の検察及び裁判

1 窃  盗

 窃盗の法定刑の種類は懲役のみであり,罰金は定められていない。
 IV-10表は,昭和41年以降の窃盗事犯について,起訴人員,起訴人員中の実刑前科者人員及び起訴猶予人員を,年齢層別に見たものであり,IV-18図は,そのうちの起訴人員の年齢層別構成比を見たもの,IV-19図は,年齢層別公訴提起率を見たものである。20代及び30代の窃盗犯の公訴提起率は高く,犯人の年齢が高くなるにつれ,公訴提起率は低く存る傾向にあるが,それでも,成人起訴人員に占める40歳以上の中高年齢層の者の割合は,45年の11.4%から平成2年の33.8%まで,急激に増加していることが分かる。
 IV-11表は,最高裁判所の資料により,昭和55年から10年間に,第一審裁判所において窃盗(ただし,不動産侵奪及び盗犯等防止法による加重類型を除く。)により有罪判決を受けた者について,実刑判決・執行猶予判決別,年齢層別に,人員と刑期合計とを算出したもの,IV-20図は,同表から,有罪人員に占める実刑判決を受けた者の割合(以下「実刑率」という。)を算出し,起訴人員に占める実刑前科者の割合(以下「実刑前科者率」という。)と対比して見たもの,さらにIV-21図は,同表から,実刑判決について,年齢層別人員構成比及び年齢層別刑期合計構成比を算出し,対比して見たものである。
 IV-20図からは,年齢層別実刑率が,IV-19図に示した年齢層別公訴提起率とは対照的に,60歳以上の年齢層の者の場合に最も高く,年齢層が下がるにつれて低くなっていることが分かる。その最大の理由として考えられることは,検察官において年齢層の高い被疑者ほど起訴を猶予するので,いきおい,起訴された者は,その年齢層が上昇するにつれ実刑前科者率も上昇するため,裁判所は,刑法25条の制約,すなわち前に禁錮以上の刑に処せられたことがある者の場合にはその執行を終り又はその執行の免除を得た日から5年以内のときは執行猶予の判決を言い渡すことができないなどの制約から,執行猶予判決を選択することができず,実刑判決を言い渡さなければならない場合が多くなるということである。

IV-10表 窃盗の年齢層別,起訴・起訴猶予別人員(昭和41年,45年,50年,55年,60年〜平成2年)

 また,IV-21図[1]をIV-18図と比較して見ると,実刑判決を言い渡された者のうち40歳以上の中高年齢層の者の人員構成比は,起訴段階のそれよりも高い数値を維持しながら上昇傾向にあることが分かる。
 ところで,犯罪者が宣告された刑期というものを,現行法と裁判実務とを前提としつつ,やや大胆に分析すれば,刑期とは,裁判官が,[1]当該犯罪者が犯した犯罪の重大性の程度(例えば,被害者が受けた苦痛や地域社会が感じた不安の程度等)と[2]犯罪者の情状の程度(例えば,職業的犯罪者が遊興費欲しさから犯行に及んだのか,それとも前科前歴のない者が生活苦から出来心で初めて犯行に及んだのかなど)との和を,職業的訓練を経た目で公平に評定した上,法律の枠内で数値化したものであるととらえることができる。本章では,[1]と[2]の和を便宜上「犯罪性」と呼んで考察すると,各年齢層の刑期合計は,各年齢層の者の犯罪性の総和を代表させる一指標と考えることができる。

IV-18図 窃盗の起訴人員年齢層別構成比(昭和41年〜平成2年)

 そこでIV-21図を見ると,各年とも40歳以上の中高年齢層の者の人員構成比と刑期合計構成比とがほとんど同じであるので,実刑判決を受けた窃盗犯の犯罪性を年齢層別に比較した場合,中高年齢層の者の犯罪性は,他の年齢層の者のそれと比べて特段高くも低くもないことが分かる。
 結局,窃盗により実刑判決を受けた者にも,社会一般における高齢化の影響が徐々に現れており,そのため,検察官の起訴裁量権の行使にもかかわらず,40歳以上の中高年齢層の者の人員構成比が上昇しており,それと同時に,中高年齢層の者の刑期合計構成比が上昇しつつあるが,中高年齢層の者による窃盗事犯の犯罪性は,より若い年齢層の者による窃盗事犯と比べると,特段質的に異なるとまでは認められないといえる。

IV-19図 窃盗の年齢層別公訴提起率(昭和41年〜平成2年)

IV-11表 窃盗の実刑・執行猶予判決別,年齢層別人員及び刑期合計

IV-20図 窃盗の有罪人員実刑率及び起訴人員実刑前科者率(昭和55年〜平成元年)

IV-21図 窃盗実刑判決における人員及び刑期合計の年齢層別構成比比較(昭和55年〜平成元年)

IV-12表 詐欺の年齢層別,起訴・起訴猶予別人員(昭和41年,45年,50年,55年,60年〜平成2年)