IV-7表は,昭和41年以降の業過を除く刑法犯の起訴人員及び起訴猶予人員を,年齢層別に示したものであり,IV-14図は,同年以降の起訴人員の年齢層別構成比を見たものである。20代の起訴人員が急激に減少したのに比べ中高年齢層すなわち40代,50代及び60歳以上の年齢層の起訴人員がいずれもほとんど減少しない傾向にあるため,起訴人員全体に占める中高年齢層の者の割合が,40年代後半から増加傾向にあり,44年及び45年にはそれぞれ15.2%であったものが,平成2年には38.3%に達している。
では,検察官は,40歳以上の中高年齢層の者を特に厳しく起訴しているのであろうか。
IV-14図 業過を除く刑法犯の起訴人員年齢層別構成比(昭和41年〜平成2年)
そこで,起訴人員と起訴猶予人員との合計に占める起訴人員の割合(以下「公訴提起率」という。)を昭和41年以降について年齢層別に見ると,IV-15図のとおりであって,公訴提起率は,50年以降は,30代の年齢層の者において最も高く,次いで,20代,40代,50代,60歳以上の各年齢層の者の順となっている。このことから,検察官は,40歳以上の中高年齢層の者を特段厳しく起訴してはいないことが分かる。むしろ,50代の年齢層の被疑者に関する公訴提起率が,20代から40代までの各年齢層の被疑者に関する公訴提起率よりもかなり低くなっており,さらに,60歳以上の年齢層の被疑者に関する公訴提起率が,50代の年齢層の被疑者に関する公訴提起率よりも一段と低くなっていることから,検察官は,50代以上の年齢層の被疑者については,被疑者の年齢が高くなるに従い,寛大に処分していることがうかがわれる。
IV-15図 業過を除く刑法犯の年齢層別公訴提起率(昭和41年〜平成2年)
被疑者調査票に基づいて調査した結果から,昭和55年及び平成2年について,各年の公判請求人員,略式命令請求人員及び起訴猶予人員を5歳刻みの年齢層に分けて見たものがIV-8表であり,さらにこれらを構成比にして見たものがIV-16図であって,[1]年齢層別に見た起訴猶予率は両年ともほとんど変わらないこと,[2]被疑者の年齢が高くなるに従い,起訴猶予率が高くなる傾向があること,[3]公判請求の比率は,昭和55年より平成2年の方が各年齢層とも高く,それだけ2年においては検察官の略式命令請求を選択する比率が低くなっていることが分かる(なお,[3]については,平成3年5月施行の刑法等の改正により,罰金の額が引き上げられるとともに略式命令請求できる罰金の限度額が20万円から50万円に引き上げられたので,今後公判請求と略式命令請求の比率がどのように推移するかが注目される。)。
IV一8表 交通関係業過を除く刑法犯の年齢層別処理区分別人員(昭和55年,平成2年)
IV-16図 交通関係業過を除く刑法犯の年齢層別処理区分別構成比
以上見てきたように,検察官は,40歳以上の中高年齢層の者を特段厳しく処分しているのではなく,むしろ逆に,年齢の高い被疑者ほど起訴を猶予する傾向にあるものの,社会一般の高齢化に伴い,犯罪者の高齢化も進みつつあるため,昭和40年代後半以降,起訴人員に占める40代以上の各年齢層の者の割合は増加しつつあり,起訴される犯罪者にも,高齢化の兆しが見られるのである。
そして,IV-9表及びIV-17図に見られるとおり,通常第一審における業過を除く刑法犯の有罪人員の年齢層別構成比においても,有罪人員に占める40代以上の各年齢層の者の割合は,昭和40年代後半から増加傾向にあり,45年には15.0%であったものが,平成元年には,39.9%に達しており,ここでも,犯罪者の高齢化の兆しが読み取れるのである。
IV-9表 業過を除く刑法犯の通常第一審における年齢層別有罪人員(昭和41年,45年,50年,55年,60年〜平成元年)
IV-17図 業過を除く刑法犯の通常第一審における有罪人員の年齢層別構成比(昭和41年〜平成元年)