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 平成 3年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節 

第3章 高齢化社会と検察及び裁判

第1節 概  説

 本章では,検察官により起訴(公訴の提起ともいい,公判請求だけでなく,略式命令請求も含む。なお,実務上,検察官は,死刑又は自由刑を求刑するのを相当と考えるときには公判請求を,また,低額の罰金又は科料を求刑するのを相当と考えるときには略式命令請求を,それぞれ選択することが多い。)又は起訴猶予の各処分を受けた者及び第一審裁判所により有罪判決を受けた者について,年齢層別に人員,構成比等を算出しつつ,特に,公判請求された者及びそのうち懲役の実刑判決を受けた者にどの程度高齢化の傾向が見られるかを概観する。
 そのため,検察関係の統計数値は,検察統計年報によったほか,必要に応じて,同年報の基礎となっている被疑者調査票に基づいて調査した結果を用いることとした。また,裁判関係の統計数値は,司法統計年報によったほか,最高裁判所から,後述する5罪名について,通常第一審における有罪判決中犯時20歳以上の者に対する有期懲役刑判決を,実刑判決と執行猶予判決とに分けた上,それぞれについて年齢層別に人員及び刑期合計を算出した資料(以下「最高裁判所の資料」という。)の提供を受け,これに基づいて調査した結果を用いることとした。
 なお,本章においては,被疑者・被告人の年齢は,すべて犯行時を基準としたものであり,起訴・不起訴の処理時あるいは判決宣告時を基準としたものではない。
 ところで,最近3年間に交通関係業過を除く刑法犯により公判請求された犯時60歳以上の者について,被疑者調査票に基づいて調査した結果により,罪名別に公判請求人員を3年分合計しその最も多いものから順に上位7罪名を見るとともに,参考までに犯時の最高年齢を見ると,IV-6表のとおりである。罪名別公判請求人員では,窃盗による者が最も多く,次いで詐欺,傷害,殺人の順となっている(なお,前章において示したように,検挙人員を見る限りでは,犯時60歳以上の横領犯が多かったが,そのほとんどが占有離脱物横領犯であり,しかも,占有離脱物横領により検挙された者のうち相当数は警察段階で微罪処分に付され,検察官に事件送致がされていない。したがって,横領で起訴される高齢者の人員は,順位では5位にとどまり,かつ,窃盗あるいは詐欺で起訴される高齢者の人員と比較すると,かなり少ない。)。

IV-6表 交通関係業過を除く刑法犯・犯時60歳以上の罪名別公判請求人員及び最高年齢(昭和63年〜平成2年)

 さらに,特別法犯に目を転じると,覚せい剤取締法違反により起訴された犯時60歳以上の者は,昭和50年にはわずか23人であったのに,その後次第に増加し,61年以降は毎年150人を超えており,顕著な増加傾向が認められる。
 そこで,本章においては,ます業過を除く刑法犯について,年齢層別に検察及び裁判の概況を検討した後,窃盗,詐欺,傷害,殺人及び覚せい剤取締法違反の5罪名について,同様の検討を行うこととする。
 なお,本章においては,便宜上,少年については,触れないこととする。

IV-7表 業過を除く刑法犯の年齢層別,起訴・起訴猶予別人員(昭和41年,45年,50年,55年,60年〜平成2年)