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 平成 3年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/7 

7 保  安

 行刑施設の保安(施設の安全及び秩序を維持する作用)は,受刑者の処遇が円滑に行われるための基盤となるものである。
 行刑施設の保安の状況を把握できるものの一つとして,逃走,殺傷等のいわゆる刑務事故がある。II-38表は,昭和50年及び最近3年間について刑務事故の発生状況を見たものである。平成2年における事故の発生件数は15件で,保安の状況はおおむね安定しているといえよう。暴力団関係者,覚せい剤事犯者等の処遇困難者を多数収容している中で,事故の多発を防いでいるのは,分類処遇が効果的に行われていること,給養その他の処遇水準の低下の防止゛に努めていること,職員の指導が適切に行われていることなどのほか,適切な保安対策が講じられてきたことによるものと認められる。
 ところで,受刑者の中でも,とりわけ暴力団関係者は,ややもすると所内で結束して職員に反抗したり,他の受刑者を威圧したり,他の受刑者集団と反目対立するなどして重大な事故を招きやすく,また,覚せい剤事犯受刑者の中には,暴力団と関係のある者が多く,処遇に当たっての保安上の問題を抱える者も少なくない。II-39表は,昭和50年及び最近3年間の各年末における受刑者中に占める暴力団関係者の収容状況を見たものである。受刑者総数に占める暴力団関係者の割合は,平成2年末では30.4%であり,これをB級受刑者収容施設に限って見ると43.2%で,依然として高い比率を示している。暴力団関係者の処遇に当たっては,組織からの離脱指導を積極的に行うとともに,厳正な規律と秩序の維持に格段の注意を払い,受刑者間の人間関係をよく把握し,必要に応じて分散収容を行うなど,特に厳格な方針をもって対処している。暴力団関係者を更生させるためには,暴力団関係組織から離脱させることが不可欠であるので,施設では,入所時から出所時に至るまでの全期間を通じて,関係組織から離脱するための個別相談や指導を積極的に実施している。離脱意思のある者が出所する時には,暴力団関係の出迎え者と対面しないように配慮している。近年,処遇困難者を多数収容しているにもかかわらず,刑務事故の発生件数は比較的低い数値で推移しているが,これには,このような暴力団関係者に対する処遇方針が大いに寄与しているといえる。

II-38表 行刑施設事故発生状況(昭和50年,63年〜平成2年)

II-39表 暴力団関係受刑者数(昭和50年,63年〜平成2年各12月31日現在)