(1) 概 況
刑務作業は,受刑者の改善更生及び社会復帰を図るための重要な処遇の一つであり,受刑者の労働意欲のかん養,職業的技能及び知識の付与,忍耐心・集中心の養成を図ることなどを目的として行われている。刑務作業の形態は,その性質・目的から,生産作業,職業訓練及び自営作業(炊事,洗濯,清掃等の施設の自営に必要な作業(経理作業)と新営,改修等施設の直営工事に必要な作業(営繕作業)とがある。)に分かれており,その業種は,木工,印刷,洋裁,金属等20余種に及び,受刑者は,各人の適性等に応じそれぞれの業種に指定され就業している。II-5図は,就業人員を形態別に見たものであり,II-6図は,生産作業就業人員を業種別に見たものである。
刑務作業は,刑法上定役に服することが義務とされている懲役受刑者が行う作業を中心として実施されているが,ほかにも,労役を課すこととされて,いる労役場留置者の作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,未決拘禁者等による請願作業が含まれる。平成3年3月末における請願作業に就業した者の比率は,禁錮受刑者ではその92.7%,未決拘禁者ではその1.4%となっている。
平成2年度(会計年度)における刑務作業の状況を見ると,各施設の収容人員が減少したことから,作業運営上必要な就業人員の確保に苦慮するなど,困難な面もあった。しかし,労働生産性の高い作業(有用作業)の導入に努め,1日平均3万8,709人が就業し,年間約28億円の作業費を使用して約166億円の収入を得ている。
II-5図 刑務作業の形態別就業人員構成比(平成2年12月31日現在)
II-6図 生産作業における業種別就業人員構成比(平成2年12月31日現在)
なお,昭和58年度(会計年度)から,国の行財政改革の方針に沿って,製作収入作業に要する原材料費(年間約40億円)を削減し,これに代わって財団法人矯正協会刑務作業協力事業部が国に原材料を提供し,製品を販売するという,いわゆる第三セクター方式による作業(事業部作業)が開始されたが,その運営は,順調に推移し,平成2年度(会計年度)の事業部作業の売上高は,約157億円に達するなど,有用作業の導入,作業量の確保の面で大きな役割を果たしている。同事業部では,昭和59年,矯正協会刑務作業協力事業部の英訳,Correctional Association Prison Industry Cooperationの頭文字をとったCAPIC(キャピック)というブランドを商標登録した。
キャピック製品は,年1回東京で開催される全国矯正展を始め,各地の矯正展などに展示・即売され,好評を博している。また,行刑施設の中には,キャピック製品等の常設展示場を設けているところが少なくない。
(2) 職業訓練
職業訓練は,受刑者に対し,職業に必要な技能を習得させ,又はその技能を向上させることを目的として,総合訓練,集合訓練及び自所訓練の三つの類型で行われている。その実施に当たっては,できる限り,公の資格又は免許を取得させるように努力が払われている。
総合訓練は,全国各施設から適格者を選定し,指定された7が所の総合職業訓練施設(福井,山口及び山形の各刑務所,川越,奈良,佐賀及び函館の各少年刑務所)において実施されている。集合訓練及び自所訓練は,それぞれ各矯正管区及び施設ごとに訓練種目を定めて実施されており,平成2年度(会計年度)では,集合訓練施設は31か所,自所訓練施設は35か所となっており,自所訓練施設は前年度に比べ7か所増えている。II-36表及びII-37表は,2年度(会計年度)における職業訓練の実施状況及び資格又は免許の取得状況を示したものである。
II-36表 職業訓練種目別修了人員(平成2会計年度)
(3) 構外作業
構外作業は,刑務所が管理する構外作業場において行われるほか,民間企業の協力を得て,一般事業所においても実施されている。実施の態様としては,作業場に泊り込んで行う「泊込作業」と施設から作業場へ通勤して行う「通役作業」とがある。作業の内容は,主として農耕・牧畜,木工,金属,造船等である。特に,泊込作業として行っている松山刑務所所管の大井造船作業場,尾道刑務支所所管の有井作業場及び札幌刑務所所管の角山農芸学園並びに通役作業として行っている加古川刑務所所管の神戸鉄工団地などでは,綿密な作業計画の下に開放的処遇を行い,良好な成績を維持している。
(4) 就業条件
就業者の作業時間は,1田こつき8時間,4週間につき168時間と定められており,作業中の休息時間も認められている。また,作業環境や作業の安全及び衛生については,労働基準法や労働安全衛生法等の趣旨に沿ってその整備が図られている。
II-37表 資格・免許取得状況(平成2会計年度)
一方,就業者が作業上不測の事故により災害を受けたときなどは,手当金(死傷病手当金)が支給されることになっている。
刑務作業の収入は,すべて国の収入となるが,作業に従事した者に対しては作業賞与金が支給される。この賞与金の性格は,就労の対価としての賃金ではなく,恩恵的・奨励的なもので,原則として釈放時に支給されるが,在所中家族あてに送金すること,又は所内生活で用いる物品の購入等に使用することが許されている。作業賞与金は,毎年増額が図られており,平成2年度(会計年度)の1人1か月当たりの平均作業賞与金計算高は,3,172円となっている。
なお,受刑者には一定の条件の下で,余暇時間内に自己の収入となる自己労作を行うことが許されており,平成3年3月末現在,441人が自己労作に従事し,1人1か月平均4,447円の収入を得ている。