アメリカの少年司法制度は,50の州及びコロンビア特別区(首都ワシントン市。以下,本節において州として扱う。)ごとに区々であるが,連邦最高裁判所において,「ケント(Kent)事件判決」(1966年),「ゴールト(Gault)事件判決」(1967年),「ウィンシップ(Winship)事件判決」(1970年)など少年司法手続等に関する憲法判断を示した判決が出された後に,多くの州で,少年司法制度の主要部分についての改正が行われている。
これらの判決以前に,各州に共通していた少年司法制度の特色は,いわゆる「国親思想」の理念に基づき,[1]少年の犯罪に対しては,処罰ではなく,少年の保護と更生を目的とする処遇が重視され,[2]少年裁判所が,犯罪少年(delinquent)だけでなく,虞犯少年(status offender,怠学,不良交友,親の監督に服さないなど,犯罪を構成しないが,問題行動を行う少年)及び要保護少年(dependent and neglected youth,親から虐待される少年,保護・監督能力のない家庭の少年など)に対して管轄権を持ち,[3]少年審判の手続が,非形式的で柔軟な手続によって行われ,刑事裁判における対審構造,証拠法則などの厳格な手続は重視されないというものであった。
しかし,従前の「国親思想」に基づく伝統的な少年司法手続は,少年裁判所において少年の「保護」が強調された結果,「治安維持」の面が軽視され,少年犯罪の増加をもたらしているという批判や,少年審判手続の非形式性が強調された結果,少年に対する適正手続が軽視されているという批判にさらされていた。
このような状況下で,連邦最高裁判所は,「ケント事件判決」で,少年裁判所が少年事件の管轄権を放棄し,事件を通常の刑事事件として刑事裁判所で審判させるためには,[1]少年に弁護人選任権を保障し,[2]弁護人に当該少年の社会記録やプロベーション記録などを閲覧する機会を与え,[3]終局判決の理由を明らかにしなければならないとし,この手続は,刑事事件の審理や通常の行政聴聞と全く同様である必要はないが,適正手続と公正な処遇の本質に適合するものでなくてはならないと判示し,「ゴールト事件判決」で,少年手続においても,適正手続の一内容として,[1]被疑事実の告知,[2]弁護人依頼権,[3]証人との対質権・反対尋問権,[4]黙秘権等が保障されるべきであると判示し,「ウィンシップ事件判決」で,無実の成人を保護するために事実認定に際して高度の慎重さを要求しているのと同様に,少年の非行事実の認定に際しても,成人の刑事事件の場合と同様,「合理的な疑いを超える証明」が必要であると判示した。
そのため,少年裁判所の犯罪少年,虞犯少年及び要保護少年に対する管轄権の点は維持されつつも,その後,各州で,少年司法の非形式性が廃止されて,少年事件に適正手続の保障が認められることとなった。
1987年の司法省の全国少年司法センター (National Center for Juvenile Justice,March1987)の資料により,アメリカの少年司法制度の概略を述べると,少年裁判所の管轄に属する犯罪少年の上限の年齢は,51州(コロンビア特別区を含む。)のうち,裁判時19歳未満とするものが1州,18歳未満とするものが40州,17歳未満とするものが7州,16歳未満とするものが3州である。なお,下限は6歳とする州が1州,10歳とする州が8州,12歳とする州が1州あるが,他はコモンロー (common law,英国に起源を有する慣習法)上の刑事責任年齢とされる7歳とするか,特に規定を設けていないかのいずれかである。
犯罪少年については,少年裁判所が専属管轄権をもっているのが通例であるが,殺人等の重大な犯罪,あるいは交通違反のような軽微なものについては,少年裁判所の管轄から除外することとしている例もある。また,殺人,強姦など一定の重大犯罪を犯した少年については,少年裁判所と通常の刑事裁判所が,共に競合管轄権(concurrentjurisdiction)を有するものとしている州も少なくない。競合管轄権を有する場合は,いずれに訴追するかは検察官の判断によるものとされるのが通例である。また,一定の重罪を犯した少年については,少年裁判所がその事件の管轄権を放棄(waiver)又はその事件を刑事裁判所へ移送(transfer)し,成人と同様に刑事訴追を行う手続が定められている例もある。なお,この管轄権の放棄又は移送については,年齢上の制限を設けている州も少なくなく,16歳以上とするものが7州,15歳以上とするものが8州,14歳以上とするものが14州,13歳以上とするものが3州,12歳以上とするものと10歳以上とするものが各1州ある。
警察による逮捕後の送致,被害者の告発などによって少年裁判所に係属した事件は,一般に,少年裁判所又はその受理部(intakeunit)によって,観護措置(detention,一種の勾留)に関する決定がなされ,調査・鑑別の上,公式の審判手続(犯罪の審理と処分)に移行する事件といわゆるダイバージョン(diversion)としての福祉機関への引渡しなど非公式の処分にゆだねられる事件に選別される。
公式の審判手続は,一般に,受理部の審判申立て(filing a petition,一種の起訴)によって行われるが,検察官が審判申立ての要否を判断し,検察官が審判を申し立てることも不訴追として釈放することもできる制度を採用している州もある。審判手続は,一般に,事実認定手続と処分手続に分かれ,犯罪(非行)事実が認定(adjudication)されると,処分(disposition)がなされる。審判手続は,少年に弁護人選任権が認められ,事実認定手続は当事者主義化されて,検察官が審判に出席して有罪を立証する責任を負い,弁護人が審判に出席して弁護活動を行う制度を採用している州もある。申立て事実が「合理的疑いを入れない程度」に立証されたと認められたときに,処分手続に移行する。
III-128表 公立少年院の男女・年齢層別収容人員アメリカ(1983年,1985年)
III-129表 公立少年院の罪種・男女別収容人員アメリカ(1985年)
処分は,少年院(training school)等閉鎖的施設への収容,農場,森林キャンプ,ハーフウェイ・ハウス等の開放的施設への収容,保護観察等多様な種類がある。