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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第6章/第5節/2 

2 少年司法制度

 イギリスの少年司法制度は,児童少年法(1933年,1963年,1969年),刑事裁判法(1948年,1961年,1967年,1972年,1982年,1987年,1988年)等によって定められている。少年裁判所(iuvenile court)は,治安判事裁判所(magistrates, court)の中の特別裁判所であり,法律家の資格を有しない治安判事3名によって構成される。その対象となるのは,10歳以上17歳未満の少年である。また,17歳以上21歳未満の成人すなわち青年の事件は,治安判事裁判所又はクラウン裁判所 (Crown Court)が管轄するが,21歳以上の成人とは異なる処分が行われ,少年処遇としての,出頭所出頭命令(attendance centre order),少年施設収容命令(detention in a young offender institution)の言渡しができる。

III-122表 特定罪種別検挙人員・少年比・青年比及び人口比イギリス(1980年,1986年〜1988年)

 少年裁判所において有罪とされた少年に対して科することができる処分の種類は,出頭所出頭命令,少年施設収容命令のほか,絶対的刑の免除(absolute discharge),条件付刑の免除(conditional discharge),罰金,監督命令(supervision order),保護命令(care order),社会奉仕命令(community service order)などがあり,このうち,少年施設収容命令,保護命令,監督命令及び出頭所出頭命令が,青少年に固有の処分である。
 1980年から1988年にかけてのイギリスの少年司法制度は,1982年と1988年の刑事裁判法による,2度にわたる改正によって,大きな変化を遂げている。
 1982年の刑事裁判法による最も大きな改正点は,我が国の少年院送致処分に類似したボースタル訓練命令(borstal training order)が廃止され,それに代わって少年拘禁命令(youth custody order)が採用されたことである。少年拘禁は,15歳以上21歳未満の者に対して期間を定めて科す施設収容処分である。さらに,短期収容命令(detention centre order)においても,それまで3か月から6か月とされていた期間が,21日から4か月へと短縮された。1982年の法改正では,さらに社会奉仕命令の適用年齢の下限を17歳から16歳に引き下げたり,監督命令を行う際に遵守事項を付す権限を裁判所に与えるなどの変革を行った。
 1988年の刑事裁判法では,この少年拘禁命令と短期収容命令も廃止され,代わりに少年施設収容命令が創設された。少年施設収容命令は,14歳以上21歳未満の男子と15歳以上21歳未満の女子に対して期間を定めて科す施設収容処分であり,年齢や性別によって収容可能な期間の長期と短期が定められている。
 なお,イギリスでは,少年事件についても起訴猶予に相当する警告(caution)処分が行われており,むしろ,少年に対して積極的に用いられている。1988年に正式起訴犯罪について警告処分を受けた者は,全体で14万703人であるが,そのうち10歳以上17歳未満の少年の占める比率が58.9%,17歳以上21歳未満の青年の占める比率が13.7%となっており,青・少年だけで全体の7割強を占めている。
 少年裁判所における審理は,非公開であり,陪審制度は認められてないが,審理の方法は,いわゆる当事者主義によるものであって,アレインメントに始まり,検察官が挙証責任を負っている。