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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第5章/第4節/2 

2 鑑  別

 少年鑑別所の内部組織は,施設の規模により若干の相違があるが,大規模の少年鑑別所には,所長の下に次長,首席専門官,庶務課及び医務課が置かれている。また,施設の規模に応じて首席専門官の下に2ないし4人の統括専門官が置かれている。III-49図は,観護措置により収容された少年に対する標準的な鑑別の流れを示したものである。観護措置による収容の期間は最長4週間と定められており,この期間に鑑別に必要な処遇と調査が行われる。
 少年鑑別所における処遇は,少年を明るく静かな環境におき,少年が安んじて審判を受けられるように配慮され,そのありのままの姿をとらえて資質の鑑別に役立てることに重点が置かれている。少年は,男女が区域を分けて収容され,さらに,性格,経歴,入所度数,年齢,共犯関係,審判の進行状況等をしん酌の上,居室を指定される。

III-49図 少年鑑別所における収容鑑別対象少年の鑑別の流れ

 入所した少年に対しては,まず,オリエンテーションとして,収容された理由,少年鑑別所における生活の要領などの説明が行われる。入所直後からの身体計測,医学的諸検査等に基づいて健康診査がなされ,身体又は精神上の疾病があるときは治療が行われる。なお,医学的所見は少年の鑑別上重要な意義をもつことはいうまでもない。
 少年には,健康増進のため栄養のバランスを配慮した飲食物が給与されるのはもちろんのこと,衣類を始め必要な日用品が給与又は貸与されるほか,一定の基準に基づいて所持品の携帯も許可される。衛生・保健,健康管理,情操安定のために入浴,理髪,運動,テレビ・ラジオの視聴,レクリエーション,読書等が日課に盛り込まれている。面会については,保護者,近親者,附添人(本章第3節1(1)参照)のほか,保護司,学校教師,雇主等も認められるが,少年の保護上不適当な者は制限される。面会場面には,附添人との面会の場合を除き,原則として職員が立ち会うことになっている。通信の発受についても,上記面会と同様に,少年の健全育成や所内の規律に反しない限り許可される。少年に対しては,積極的な教育的働きかけは行わないが,日常生活の基本的行動様式を身につけさせるためのしつけや本人の希望に応じて進路指導,相談・助言が行われる。
 収容期間を通して,上記の様々な場面における少年の行動が客観的かつ綿密に観察され鑑別のための資料となる。行動観察に当たっては,収容して鑑別するという少年鑑別所における鑑別の特徴を生かし,かつ,少年のより精密な鑑別に役立てるため,処遇の一環として「探索処遇」を実施している。これは,個々の少年の特性を考慮しつつ,作文,読書,はり絵,粘土細工,心理劇,集団討議等の処遇を実施して,少年の問題性,改善可能性の程度に応じた改善更生のための方法等を探り,鑑別に反映させることを目的としている。したがって,その実施に当たっては,少年を,観護措置による入所者など鑑別が必要とされる者のみに限定し,処遇種目を指定する場合も,少年が審判前の者であることを十分に考慮して行うとともにその実施に際しても前述の目的を超えないよう配慮している。
 鑑別のための調査は,面接,心理検査,精神及び身体医学的検査,行動観察,生活史及び環境に係る資料によって行われる。通常は,入所直後に行われる初回の鑑別面接,少年の知的レベルや性格特性などを大まかにつかむことを目的とした集団心理検査の結果等を基に鑑別計画が立てられる。集団心理検査は,知能検査,質問紙法性格検査,態度検査などを数種類組み合わせて実施している。鑑別担当者により引き続き面接が重ねられ,問題点に応じて必要とされる投影法検査など個別心理検査や適性検査等が実施される一方で,環境資料の収集,保護者との面接,家庭裁判所調査官との情報交換等が行われる。
 以上から得られた情報を基に,少年の資質と非行性との関連,問題点の所在及び特徴,処遇上の指針等を検討するために判定会議を行っている。これは少年鑑別所長が主宰し,対象者の処遇,行動観察及び鑑別に携わった職員が加わって種々の角度から検討討議し,その討議の結果に基づき,判定意見が決められるが,これを鑑別判定という。このようにして得られた結論が鑑別担当者によってまとめられ,「鑑別結果通知書」が作成され,審判の資料として家庭裁判所へ送付される。鑑別結果通知書には判定欄があり,鑑別判定が記載されることになっている。この判定は,保護不要,在宅保護,収容保護,保護不適の4種に大きく分けられ,保護不要は,公的な機関による継続的な指導,監督がなくとも改善,更生が期待できる者,在宅保護は,保護観察所又は児童福祉機関等による指導監督又は補導援護により改善,更生が期待できる者,収容保護は,少年院における矯正教育,教護院における教護,又は養護施設における養護により改善,更生が期待できる者,保護不適は,検察官送致を相当とする者及び重度の心身の疾病又は障害のため,専門的医療措置を最優先するのが相当である者に対してそれぞれ付される。
 また,鑑別の結果は,「少年簿」に記載され,保護処分の決定がなされた場合,その処分の執行に資するため,少年院,保護観察所等へ送付される。少年院送致決定のあった少年については,さらに,家庭裁判所等の処遇に関する意見を考慮し,判定会議の討議内容に基づき,少年院における処遇指針を作成する。
 少年鑑別所は,上記の収容による鑑別以外にも,在宅のまま家庭裁判所に事件が係属している少年の鑑別(在宅鑑別),少年院,地方更生保護委員会,保護観察所,検察庁等の求めによる鑑別(依頼鑑別)及び一般家庭や学校等から依頼を受けた少年に対する鑑別(一般少年鑑別)も行っている。このように,少年鑑別所は,他の矯正施設と異なって,身柄の収容を伴わない対象者に対する鑑別という機能も果たしており,広く非行防止に寄与している。