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1 少年審判 (1) 少年審判の手続
警察等の捜査機関,検察官,都道府県知事若しくは児童相談所長からの送致,又は家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した一般人等からの通告を受けた家庭裁判所は,審判に付すべき少年があると思料するときは,事件について調査をしなければならないが,その調査は,家庭裁判所調査官に命じて行わせる。調査は,なるべく,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識,特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して行うように努めなければならないとされている。そのため,家庭裁判所は,少年を少年鑑別所に送致して,資質艦別を求めやことかある。 家庭裁判所は,調査の結果,児童福祉法の規定による措置を相当と認めるときは,児童相談所長送致等の決定をし,事件の罪質及び情状に照して刑事処分を相当と認めるときは,検察官送致の決定をするが,審判が開始された後で,児童相談所長送致等又は検察官送致の決定をすることもある。 家庭裁判所は,調査の結果,少年の所在が不明等の理由により審判に付することができず,又は事案軽微等の理由により審判に付するのが相当でないと認めるときは,審判不開始決定をし,審判を開始するのが相当であると認めるときは,審判開始決定をする。少年審判は,非公開で行われ,審判期日には,少年,保護者及び附添人を呼び出すほか,保護観察官,保護司又は少年鑑別所に勤務する法務教官・法務技官を出頭させて意見を聞くこともあるが,検察官は立ち会うことはできない。なお,附添人は,少年に対して保護処分が適正に行われるための協力者であるが,保護処分が少年の自由を拘束する強制処分となることもあり,違法ないし不相当な自由の拘束等から少年の人権を守るという意味において,刑事訴訟における弁護人に類する役割を果たすことが多い。少年及び保護者は,家庭裁判所の許可を受ければ,弁護士以外の者を附添人に選任することができ,弁護士を附添人に選丘する場合は,家庭裁判所の許可を要しない。 家庭裁判所は,審判の結果,非行なし等の理由により保護処分に付することかできず,又は事実上何らかの保護的措置がとられている等の理由により保護処分に付する必要がないと認めるときは,不処分の決定をする。審判不開始決定と不処分決定は,刑事処分にも保護処分にも付さない処分という点で,実質的には類似した機能を果たしている。家庭裁判所は,審判を開始した事件について,保護処分として,[1]保護観察,[2]教護院・養護施設送致,[3]少年院送致のいずれかの決定をする。 家庭裁判所は,保護処分を決定するため必要があると認めるときは,家庭裁判所調査官の観察(一般に「試験観察」と呼ばれている。)に付することかある。試験観察は,おおむね3か月ないし6か月程度の期間,家庭裁判所調査官に少年を補導させ,その経過を観察させることであり,これによってその少年の処分を決定しようというものである。なお,試験観察に付する場合には,[1]遵守事項を定めてその履行を命ずること,[2]条件をつけて保護者に引き渡すこと,[3]適当な施設,団体又は個人に補導を委託することができる。 家庭裁判所の保護処分の決定に対しては,決定に影響を及ぼす法令の違反,重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り,少年,その法定代理人又は附添人から,2週間以内に,抗告をすることができる。検察官には,抗告をする権限は与えられていない。少年の保護処分決定に対する抗告事件の総数は,昭和50年が154件,60年が327件,61年が356件,62年が298件,63年が252件となっている。 III-58表 少年保護事件の家庭裁判所受理人員(昭和50年,60年〜63年) (2) 受理状況III-58表は,昭和50年及び60年から63年までの家庭裁判所受理人員を,事件の種類別に見たものである。63年における受理人員総数は53万6,267人で,前年より3万5,028人(6.1%)減少している。総数のうち,一般保護事件(少年保護事件のうち,道路交通保護事件を除いたもの)は55.2%であり,道路交通保護事件(道交違反を犯した少年の保護事件)は44.8%である。一般保護事件の内訳を見ると,業過を除く刑法犯が65.7%,業過が22.9%,特別法犯が10.1%,虞犯が1.3%となっている。 III-59表は,昭和50年及び60年から63年までの家庭裁判所で終局処理(本表においては,移送・回付,従たる事件を含む。)された少年一般保護事件(交通関係業過及び虞犯を除く。)のうち,受理時に身柄付きであったもの及び簡易送致事件の状況を見たものである。受理時身柄付きであったものの比率は,50年以降,7%台から8%台で推移している。簡易送致事件は,50年と比べて60年には,実数では2.5倍に増加し,構成比では6.7ポイント上昇しており,その後も,逐年増加する傾向にある。 III-59表 少年一般保護事件の家庭裁判所終局処理人員のうち受理時身柄付人員及び簡易送致人員(昭和50年,60年〜63年) III-60表 少年一般保護事件の家庭裁判所終局処理人員(昭和50年,60年〜63年) (3) 処理状況III-60表は,交通関係業過及び虞犯を除く一般保護事件について,昭和50年及び60年から63年までの家庭裁判所の終局処理状況を見たものである。63年の終局処理人員総数は,前年より1,839人増の19万853人であり,そのうち,14万532人(73.6%)は審判不開始に,3万645人(16.1%)は不処分に付されており,約9割の者が審判不開始又は不処分となっている。63年に,刑事処分相当として検察官に送致された人員は716人(0.4%)で,前年より143人減少しており,少年院送致及び保護観察の処分を受けた少年は,それぞれ4,192人(2.2%),1万3,937人(7.3%)である。また,教護院・養護施設送致及び都道府県知事・児童相談所長送致は,それぞれ235人(0.1%),166人(0.1%)である。 III-61表 少年一般保護事件の家庭裁判所終局処理のうち審判不開始の理由別人員(昭和50年,60年〜63年) 前記一般保護事件のうち,審判不開始の理由別人員を見たのがIII-61表であり,不処分の理由別人員を見たのがIII-62表である。審判不開始及び不処分共に,「保護的措置」を理由とするものの比率が高い。また,「事案軽微」を理由として審判不開始となる人員は,増加傾向にあり,前記III-59表で見た簡易送致事件の増加傾向とほぼ同じ傾向を示している。III-63表は,昭和63年における交通関係業過及び虞犯を除く一般保護事件の家庭裁判所終局処理状況を,罪名別に見たものである。終局処理人員総数19万853人の内訳は,窃盗が12万7,363人(66.7%)で最も多く,以下,横領の1万9,975人(10.5%),毒物及び劇物取締法違反の1万4,858人(7.8%),傷害の8,366人(4.4%)などの順となっている。 III-64表は,昭和63年における交通関係業過を除く一般保護事件の家庭裁判所終局処理状況を,前処分回数別に見たものである。処分歴のない少年は,0.1%が検察官に送致され,4.7%が保護処分に付されているにすぎないが,処分歴のある少年では,1.3%が検察官に送致され,28.0%が保護処分に付されており,かつ,前処分の回数が多くなるにつれて,検察官送致,保護処分の各比率が高くなっている。 III-62表 少年一般保護事件の家庭裁判所終局処理のうち不処分の理由別人員(昭和50年,60年〜63年) III-63表 少年一般保護事件の罪名別家庭裁判所終局処理人員(昭和63年) III-64表 少年一般保護事件の前処分回数別家庭裁判所終局処理人員(昭和63年) III-65表は,昭和61年から63年までの交通事犯少年に対する家庭裁判所の終局処理状況を見たものである。総数では,63年は前年に比べて,交通関係業過で1,043人(1.7%),道交違反で4万8,818人(18.9%)それぞれ減少している。63年の処理の内訳を見ると,交通関係業過では,検察官送致が1,541人(27.7%)減少して4,028人,少年院送致が6人(5.3%)増加して119人,保護観察が332人(1.9%)減少して1万7,007人となっている。一方,道交違反では,検察官送致が1万1,603人(31.8%)減少して2万4,859人,少年院送致が55人(17.7%)減少して255人,保護観察が2,225人(5.7%)減少して3万6,901人となっている。III-66表は,昭和61年から63年までの虞犯少年に対する家庭裁判所の終局処理状況を見たものである。63年の処理人員総数は2,236人であり,前年と比較すると322人(12.6%)減少している。終局処理の内訳を見ると,少年院送致が,前年より44人(11.6%)減少して334人,保護観察が,前年より43人(5.3%)減少して765人となっている。 III-65表 交通事犯少年の家庭裁判所終局処理人員(昭和61年〜63年) III-66表 虞犯少年の家庭裁判所終局処理人員(昭和61年〜63年) (4) 試験観察III-67表は,昭和50年及び60年から63年までの少年保護事件の家庭裁判所における試験観察決定人員を見たものである。50年と比べて,60年は,試験観察決定人員が減少している。60年以降は,一般保護事件の試験観察決定人員が増加傾向にあり,道路交通保護事件のそれが減少傾向にある。 III-67表 少年保護事件の家庭裁判所における試験観察決定人員(昭和50年,60年〜63年) III-68表 試験観察を経た少年一般保護事件の家庭裁判所終局処理人員(昭和50年,60年〜63年) III-69表 試験観察を経た少年道路交通保護事件の家庭裁判所終局処理人員(昭和50年,60年〜63年) III-68表は,昭和50年及び60年から63年までの試験観察を経た少年の一般保護事件の終局処理状況を,III-69表は,同じく道路交通保護事件の終局処理状況を見たものである。一般保護事件及び道路交通保護事件共に,60年以降の総数に占める検察官送致決定の比率が,50年と比べて低下している。また,いずれの年次においても,試験観察を経た少年の9割以上が,審判不開始・不処分となっている。(5) 附添人 III-70表は,昭和50年及び60年から63年までの一般保護事件の終局処理事件のうち,附添人が選任された事件の数及びその事件の終局処理状況を見たものである。附添人が選任された事件の数は,増加する傾向にある。 III-70表 附添人が選任された少年一般保護事件の家庭裁判所終局処理人員(昭和50年,60年〜63年) |