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 平成 2年版 犯罪白書 第1編/第2章/第6節/2 

2 精神障害のある犯罪者の取扱い

(1) 刑法による取扱い
 刑法においては,精神の障害によって自己の行為の是非善悪を弁別する能力を欠くか,又はその能力はあるがこれに従って行動する能力がない者は,心神喪失者として,刑罰を受けることがない。また,このような弁別能力又は弁別に従って行動する能力の著しく低い者は,心神耗弱者として,刑が減軽される(刑法39条)。
 I-44表は,検察庁で不起訴処分となった被疑者のうち,精神の障害のために心神喪失又は心神耗弱と認められた者,及び第一審裁判所で精神の障害のために心神喪失を理由として無罪とされた者又は心神耗弱が認められて刑を減軽された者の数を,最近5年間について見たものである。平成元年においては,心神喪失を理由とする不起訴人員は397人,心神喪失を理由とする無罪人員は9人となっている。

I-43表 刑法犯検挙人員中精神障害者の罪名別人員(平成元年)

I-44表 心神喪失・心神耗弱者の人員(昭和60年〜平成元年)

(2) 精神保健法による取扱い
 精神保健法においては,精神障害者とは,精神病者(中毒性精神病を含む。),精神薄弱者及び精神病質者をいうと定義し(同法3条),精神障害者又はその疑いがあることを知った場合における一般人による都道府県知事への指定医の診察及び必要な保護の申請(同法23条),警察官,検察官,保護観察所長及び矯正施設の長による都道府県知事への通報義務(同法24条ないし26条),精神病院の管理者からの都道府県知事への届出義務(同法26条の2)について規定している。一般人の申請,警察官の通報,精神病院の管理者の届出については,対象が犯罪者に限られない。これらの申請,通報,届出を受けた都道府県知事は,2人以上の精神保健指定医の診断を求め,その結果,その者が精神障害者であり,かつ,医療及び保護のために入院させなければ,その精神障害のため,自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると一致して認められた場合には,国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院にいわゆる措置入院をさせることができる(同法29条)。以上の点については,上記改正前の精神衛生法においても同様である(ただし,従前の精神衛生鑑定医制度は,精神保健指定医制度に改められている。)。
 I-45表は,最近5年間における精神保健法(昭和63年6月30日以前は精神衛生法)の規定に基づく申請,通報件数,申請・通報により精神障害者と認められた者の数(精神障害者数)及びその結果措置入院させられた者の数(措置入院者数)を年次別に見たものである。申請・通報件数,精神障害者数及び措置入院者数のいずれにおいても,総数は62年まで逐年減少傾向にあったところ,63年には前年より増加した。平成元年には,申請・通報件数は前年より減少して5,702件となったものの,認定された精神障害者数は前年より増加して3,870人,措置入院者数も前年より増加して2,246人となっている。申請・通報件数が減少したにもかかわらず,認定された精神障害者数及び措置入院者数がいずれも増加したことは,精神衛生法(改正後は精神保健法)の改正に伴い,申請・通報を受けた患者に対する措置入院の必要性の判定基準が明確化された(同法28条の2)ことなどによるものと思われる。

I-45表 精神保健法による申請・通報件数及び精神障害者数(昭和60年〜平成元年)