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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第4章/第1節/1 

第4章 少年非行と処遇

第1節 少年非行の動向

1 少年非行の概観

 戦前と戦後とでは少年に関する法制が異なり,少年とは,旧少年法の下では18歳未満の者をいい,現行少年法の下では20歳未満の者をいうが,本節では,後者の基準により20歳未満の者を少年として,その検挙人員等の推移を見ることにより,昭和の少年非行の動向を概観することとする。
 戦前の少年の犯罪を示す統計は,昭和11年以降の警察統計の検挙人員に関するものがあるにすぎず,この統計は,14歳未満の触法少年を含むものである。そこで,本節においては,特に断りのない限り,少年刑法犯検挙人員には触法少年を含むものとする。
 付表21表は,昭和11年以降の少年刑法犯検挙人員及び人口比の推移を,成人(成人の検挙人員は,15年までは明らかにされていないので,16年以降の数値である。)のそれと対比して示したものである(IV-2図参照)。この図表によると,少年の刑法犯検挙人員は,11年には4万6,550人(人口比3.2)で,15年には5万3,048人(同3.4),18年には6万1,366人(16年から18年までは,人口統計が明らかにされていないので,人口比は算出できない。),19年には7万5,314人(同4.6)と増加し,20年には5万4,787人(同3.3)と減少したものの,終戦直後の翌21年には11万1,790人(同6.7)と急増し,26年には16万6,433人(同9.5)を数え,これが戦後の少年非行の第1のピークとなっている。その後,29年まで減少したが,30年以降再び増勢に転じ,39年には23万8,830人(同11.9)と戦後第2のピークを迎え,以後,なだらかな減少傾向を示しながら51年に19万4,024人(同12.1)まで減少したものの,52年以降,再び増勢に転じ,56年には30万人を超え,58年には31万7,438人(同17.1)と戦後最高の数値で第3のピークを迎えた。59年以降は減少傾向にあったが,63年には29万2,902人(同15.3)となり,前年に比べ3,706人(1.3%)の増加となっている。
 昭和の少年非行の動向は,このように,戦前は19年にピークに達したもののその検挙人員は比較的少なく,戦後は26年,39年,58年をピークとする三つの波に分けて見ることができる。戦前の19年前後の少年非行の増加は,戦時体制下の社会全体の不況,貧困などを背景とするものであり,20年代の非行の増加は,敗戦による社会秩序の乱れ,経済的困窮,家族生活の崩壊などの社会的混乱を背景とするものであり,30年代から40年代の非行の増加は,戦中・戦後の困難な時代に成長期を過ごした10代後半の少年人口の増加や我が国経済の高度成長過程における工業化,都市化等の急激な社会変動に伴う社会的葛藤等の増大などを背景とするものであり,50年代以降の非行の増加は,豊かな社会における価値観の多様化,家庭や地域社会などの保護的・教育的機能の低下,犯罪の機会の増大などの社会的諸条件の変化に関係するものといえよう。
 これに対して,成人刑法犯検挙人員の動きを見ると,戦前の昭和16年には28万1,708人(少年と同じく人口比は算出できない。)で,その後起伏を示しながら減少し,20年には18万7,858人(人口比5.0となっている。ところが,21年には33万3,694人(同8.4)と急増し,23年には40万人を超え,25年には45万8,297人(同10.1)と戦後第1のピークを示した後は,多少の起伏はあるものの減少ないし横ばい状態を続け,おおむね40万人台で推移し,38年以降再び増勢に転じ,40年には50万人を超え,45年には88万3,254人(同12.6)と戦後最高の数値を示した。その後は減少傾向にあって,40年代終りからおおむね60万人台で推移していたが,50年代後半から増加傾向となり,63年には73万3,886人(同8.3)となっている。また,全刑法犯検挙人員に占める少年の比率(少年比)は,16年には15.8%であったが,その後はおおむね20%ないし30%台で推移し,63年には28.5%となっている。
 以上は,全刑法犯検挙人員について見たものであるが,昭和30年代後半以降の増加は,交通関係業過の増加によるものが大きい。そこで,交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員の動向を見ることとする。IV-66表は,41年以降の交通関係業過を除く少年刑法犯の検挙人員,人口比及び少年比の推移を,成人のそれと対比して示したものである。41年を基点とした理由は,この年から警察庁の犯罪統計が交通関係業過を除く刑法犯を基礎として整備されたためである。41年の交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員は18万2,255人,人口比は9.0で,その後,47年の13万6,980人(人口比8.4)まで,おおむね減少したが,48年以降増勢に転じ,55年には20万人を超え,58年には26万1,634人(同14.1)と41年以降の最も大きな数値となり,その後は起伏を示しながら減少傾向を示し,63年には23万1,210人(同12.1)となっている。一方,交通関係業過を除く成人の刑法犯検挙人員は,41年の28万5,296人(同4.5)から,起伏を示しながら漸減傾向にあり,63年には20万5,002人(同2.3)となっている。次に,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員総数に占める少年の比率(少年比)を見ると,41年には39.0%であったものが,次第に高くなり,56年には50%を超え,63年には53.0%となっている。

IV-66表 交通関係業過を除く少年・成人別刑法犯検挙人員及び人口比(昭和41年〜63年)

 前述のとおり,全刑法犯検挙人員中に占める少年の比率は,16年には15.8%,19年には24.2%であったが,戦前の交通関係業過による検挙人員はごくわずかであり,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員中の少年比も,これらの数値とほぼ同じであったと認められる。したがって,その少年比は,戦前は16年の約16%,19年の約24%であったのに,戦後の41年には39.0%,63年には53.0%となっていることから見て,戦前と比べ,戦後特に近年において,刑法犯中の少年非行の比率が著しく増大していることを示している。