第4節 諸外国の犯罪動向との対比 第二次世界大戦後,工業化,都市化等の急激な経済的,社会的変動を経験した国は少なくない。欧米先進諸国もこれらの変動を経験しているが,多くの国では,同時に暴力犯罪を中心とする犯罪の多発に悩まされるようになり,特に都市における治安の悪化が市民生活に大きな不安をもたらしている。しかし,我が国においては,既に見たとおり,急激な経済,社会の変動を遂げながらも,戦後の混乱期とこれに続く若干の期間を除いては,交通関係業過を除く刑法犯が減少ないし緩やかな増加にとどまっており,主要な犯罪が相当急激に増加している欧米先進諸国とは異なった様相を示している。もとより,我が国とこれら諸国とでは,犯罪とされるものの範囲や犯罪構成要件を異にし,統計の手法が同一ではないなどの問題があって,正確な比較は困難であるが,戦後における我が国の犯罪動向の一応の位置づけをするために,各国の統計数値から見た犯罪情勢の推移と対比して考察することば有益であると考える。 そこで,本節では,入手し得た公的資料によって,欧米諸国のうち,アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)連合王国(以下「イギリス」という。),ドイツ連邦共和国(以下「西ドイツ」という。)及びフランス共和国(以下「フランス」という。)の4か国と我が国のそれぞれにおける主要な犯罪の認知件数の合計及び人口10万人当たりの認知件数(以下「発生率」という。)の推移を対比するとともに,最も重大な犯罪である殺人罪,性犯罪の典型である強姦罪及び最も一般的な犯罪である窃盗罪について,これら各国における認知件数,発生率及び検挙率の推移を相互に比較して見ることにした。
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