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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/4 

4 その他

 以上,昭和の刑法犯の動向を観察したところ,時代に応じて大きな変化を示す犯罪とさほどの変化は認められない犯罪とがあったが,その変化の特徴によって刑法犯を分類すると次のとおりである。
(1) 変化の認められない犯罪
 比較的変化の認められない犯罪としては,放火及び失火などを挙げることができるであろう。他に,殺人も特に顕著な変化が認められないものに加えることができよう。
(2) 変化の認められる犯罪
 上記以外の犯罪については,時代と共に変化を認めることができるが,これを戦前と戦後とで比較して見ると次のとおりである。
ア 戦後減少した犯罪
 戦後に減少した犯罪としては,まず賭博・富くじを挙げることができるであろう。戦後間もない時期こそ戦前の数値に近い数値を記録していたが,以後激減している。戦後,娯楽が多様化したことや公営ギャンブルが盛んに行われるようになったことなどが影響したと見ることもできるであろう。
 他に減少した犯罪としては,誘拐を挙げることができる。戦後昭和30年前後等に高い数値を認めることはできるが,戦前よりはるかに低い数値にすぎない。戦前には,8年の児童虐待防止法が制定されるに至る背景とされる,児童の酷使,虐待及び人身売買等がしばしば見られたが,戦後は経済の発展等に従い,人身売買等が姿を消すなど,誘拐の誘引が減少したことによると考えることもできよう。
イ 戦後増加した犯罪
 上記以外は,すべて戦後に増加したと認められるが,中でも増加が著しいのは,業過,窃盗,恐喝,強盗,暴行,傷害,強姦及び強制猥褻等である。
 戦後における業過の急増は,いうまでもなく,自動車交通の発達に伴う自動車事故に係る交通関係業過の増加によるものである。既に見たとおり,24年には業過は5,157件で,全刑法犯認知件数のわずか0.3%に過ぎなかったが,30年代以降急増し,45年には65万4,942件,33.9%になり,その後,道路交通法の改正等を含む交通総合施策の実施によりやや減少したが,自動車保有台数の急増に伴い,50年代半ばから再び増加している。
 戦後,窃盗の増加も著しいが,終戦直後の混乱期における増加は,窮乏生活下の食糧,生産財等をねらった事案が中心であったのに対し,昭和50年代から現在に至る増加は,車上ねらい,オートバイ盗,自転車盗及び万引きなど,モータリゼーションの進展やセルフサービス販売形式の店舗の増加など社会生活環境の変化に伴う窃盗の機会の拡大によるものと認められる事案が中心となっており,動機や犯行態様には大きな差異が認められる。50年代以降,占有離脱物横領が増加しているが,路上等に放置されたオートバイや自転車に係るもので,窃盗の増加と軌を一にしている。
 次に,戦後,暴行,傷害等粗暴犯の増加も目立っている。もっとも,増加の時期については,ずれが認められ,窃盗,恐喝及び強盗は,戦後間もない生活に困窮した混乱期に多発しているのであり,経済的要因が大きいことをうかがわせ(最近における窃盗の増加の要因がこれと異なることについては,前述のとおり。),暴行及び傷害については,昭和20年代後半から40年ころに至る新しい社会体制が確立されていく復興期に多発しているのであり,むしろ青少年人口の増加や社会不安等の社会的要因等の影響を感じさせる。なお,恐喝については,混乱期にも高い数値が認められるが,復興期にはより多発しており,財産犯的性格より粗暴犯的性格が強いためと思われる。