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 昭和37年版 犯罪白書 第三編/第二章/三 

三 少年院出院者の再犯状況

 少年院出院者はその後どの程度に再犯を犯しているであろうか。また,再犯を犯す場合に,その再犯期間はどの程度であろうか。非行少年に対する家庭裁判所の処分は,少年院送致のほか,保護観察処分,審判不開始,不処分等であり,また,刑事処分を相当とするときは検察官に逆送する措置があるが,一般的にいえば,少年院送致決定は,非行性の比較的進んだ少年に対して言い渡される場合が多く,また,刑事処分を相当とする場合をのぞき,家庭裁判所のする保護処分としては,重い処分であるから,この少年院送致の決定を受け,少年院に収容された少年が,出院後どのような経過をとるかは,きわめて興味のある問題であり,また,このような非行性の強い少年が少年院における処遇によりどの程度矯正の実を挙げたかをみるためには,少年院出院者の再犯状況およびその再犯期間を調べることも一つの方法である。
 法務総合研究所では,昭和三二年に全国の少年院から出院(退院または仮退院)した合計七,八五五人を対象として,出院後の再犯状況を調査した。調査の方法としては,少年院に保管されている記録と再犯の有無については警察庁保管の指紋原紙によった。以下その調査の一部を述べると,次のとおりである。なお,この調査においては出院後少年を取り巻いた種々の条件については,目下調査中であって,これをここに示すことができないから,単に再犯状況だけでただちに少年院の処遇の効果を論ずることのできないことはいうまでもない。
 まず,少年院出院者の再犯といっても,単に警察に検挙されただけのもの,または家庭裁判所に送致されて保護観察処分に付せられたもの,または審判不開始,不処分に付せられたもの,少年院に再び送致されたもの,さらには刑事処分相当の意見で刑事裁判所に回され自由刑の実刑を受けたもの,または刑の執行猶予に処せられたもの等その処分は種々雑多であるが,ここでは一応再犯を犯して再び少年院に送致されたものおよび刑事裁判所で自由刑の実刑の判決を受け,刑務所に収容されたものを「再収容」とし,再収容された者とそうでない者とに分け,その成行をみることとする。これは,再収容される場合には,一般的にいって犯罪性の強い非行を犯したものということができるし,また,再収容された少年が累犯化の方向に進む場合が多いと一般的に考えられているからである。
 調査の対象となった七,八五五人のうち,死亡,指紋票の未発見等の事由で調査から除外したものが七一三人あったので,実際に出院後の成行を調査できたのは,七,一四二人である。なお,調査は昭和三五年末に,すなわち三年間の成行期間をみて行なわれた。
 まず,七,一四二人のうち三カ年の間に再収容された者は,その五四%にあたる三,八六二人,非収容は四六%にあたる三,二八〇人である。これを男女別にみると,男子の再収容率は五六・六%,女子のそれは二五%であるから,女子は男子に比して著しく低率である。
 少年院出院者の出院時の年齢とその後の再収容の有無をみると,III-24表に示すように,年齢の低い層ほど再収容の率が高くなっている。すなわち,一四-一五歳の年少少年群では六五・一%が再収容されているのに対し,一六-一七歳の中間少年群では五九・四%,一八-一九歳の年長少年群では五四・二%である。もっとも年長少年または二〇歳以上の層では,出院後成人となりまたはすでに成人となっているために,再犯を犯した場合に家庭裁判所に送致されず,刑事裁判所で自由刑の言渡を受けるが,刑の執行猶予の裁判があったために,再収容されない場合があることを考慮すると,その率が再犯状況を正確にあらわしていないかも知れない。しかし,いずれにしても低年齢層の少年ほど再収容率が高いということは,注目されなければなるまい。

III-24表 少年院出院者の出院時年齢別人員とその成行(昭和32年出院者)

 少年院には初等,中等,特別,医療の四種類があるが,どの種類の少年院の出院者に再収容率が高いものがあるかをみると,最も高率を示しているのが特別少年院の五九・三%,これに次ぐのが初等少年院の五七・九%,中等少年院の五二・四%であり,最も低いのが医療少年院の四六・七%である。非行性の進んだ少年を収容する特別少年院が最も高率を示しているのは当然のことともいえるが,おおむね一六歳未満の少年を収容する初等少年院がかなりの高率を示していることおよび心身に著しい故障のある少年を収容している医療少年院が最も低率であることは,注目を要するところといえよう。
 次に少年院出院者のうちで再収容された者は,出院後どの位の期間にどの程度のものが収容されたかをみると,出院後六カ月以内には二〇・七%,一年以内には三三・〇%,二年以内に四五・五%,三年以内に五一・二%(以上は累積率)がそれぞれ再収容されている。出院後二年以内に出院者総数の四五%強が再収容されているということは,少年犯罪の再犯スピードが相当はやいことを物語っているといえよう。
 少年の精神状況を正常,準正常,精神薄弱,精神病質,精神病質の疑,神経症,その他の障害の七種別に分け,これと再収容との関係をみると,再収容率の最も高いのは,精神病質およびその疑の各五九・〇%強,これに次ぐのが準正常の五五・三%である。正常は四八%で比較的低い順位にある(III-25表参照)。

III-25表 少年院出院者の精神状況別人員とその成行(昭和32年出院者)

 少年院出院者が少年院に入院する以前に警察で逮捕されたことがあるかどうか,あるとすればその回数は何回位かをみると,七,一四二人のうち六五・三%にあたるものがすでに逮捕された前歴者で,逮捕歴のないものは三四・七%にすぎないが,この逮捕歴と出院後の再収容の関係をみると,III-26表のとおり,逮捕歴のない者の再収容率は四八・九%で比較的低い。逮捕歴のあるものについて,その逮捕回数別をみると,逮捕回数の多いものほど再収容率が高く,逮捕歴四回以上のものの再収容率は六四・〇%となっている。逮捕歴の多いということは,その非行性がかなり進んでいることの一つのあらわれということができる。これが再収容の比率にあらわれているのであろう。

III-26表 少年院出院者の入院前逮捕歴別人員とその成行(昭和32年出院者)