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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第六章/三 

三 犯罪者の中の精神障害者の率

 これら精神障害者の中に,いったいどれ位の割合で犯罪に陥る者がいるのであろうか。あるいはまた,犯罪者の中には,どれ位の率で精神障害者がいるのであろうか。これを全国的な規模で正確に把握することは決して容易なことではない。
 精神衛生法の申請(一般―第二三条)および通報(警察―第二四条,検察―第二五条,矯正―第二六条)の規定によって申請され,あるいは通報された者について,昭和三一年から昭和三五年までの五年間の統計をみると(I-99表100表),一般からの申請は逐年増加し,昭和三五年にいくらか減少をみせているが,警察・検察・矯正関係機関からの通報は年々増加の傾向を示している。

I-99表 精神衛生法による鑑定処理件数(昭和31〜35年)

I-100表 精神衛生法による通報件数(昭和31〜35年)

 これら申請および通報の五年間の平均は二一,〇二八件で,そのうち精神障害と認定された者の平均は一四,七一四人である。これに対し警察・検察および矯正施設から通報された件数は平均一,九九七件で,そのうち精神障害と認定された者の平均は一,四九六人にすぎない。これら犯罪性の精神障害者数の,申請・通報総数中の精神障害者に対する比率を求めると一〇・二%になる。しかし,この統計数字だけから,精神障害者の中の犯罪者の比率を求めることはきわめて危険である。もし精神衛生法の規定通りに,精神薄弱や精神病質が精神障害者として通報されるならば,通報の数はもっと多くなり,したがって犯罪性精神障害者の割合も大きくならなければならない。年間三万人をはるかにこえる少年鑑別所収容者についての専門家による精神診断の結果でも,一五%を下らない人数が精神障害と診断されており(I-101表),年間一万人に達する少年院収容者については,二五%をこえる者が精神障害者と判定されているからである(I-102表)。これに成人犯罪者の中の精神障害者を加えるならば,その数はかなり大きなものになるはずである。

I-101表 少年鑑別所における精神診断結果別人員の百分率(昭和31〜35年)

I-102表 少年院在院者の精神状況別人員の百分率(昭和31〜36年)

 全国の精神衛生施設に収容されている精神障害者の中で,犯罪経歴をもつ者の数はまだ明らかにされていない。また,裁判所,検察庁,警察などで扱う犯罪者や非行少年の中の精神障害者の割合も明らかでない。その犯罪性の程度から推して,少年鑑別所収容者における比率よりは低くなると考えられるが,精神衛生法による通報件数ほどに僅少であるとはとうてい考えられない。
 I-103表は心神喪失の理由で不起訴になった者,または,第一審で無罪となった者,および刑の減軽理由として心神耗弱と認められた者の数である。もちろん,心神喪失や心神耗弱はわが国の現行法上の法律用語で,精神医学的な意味での障害の種類やその度合と一致するものでばない。しかし,心神喪失と認められる者の大部分は精神病者か重い精神欠陥者であり,心神耗弱の多くは精神薄弱か比軽的軽い程度の精神障害者であるから,これらはいずれも精神障害の範疇に入ることは間違いないであろう。

I-103表 心神喪失と心神耗弱の人員(昭和26〜35年)

 これらの数字を年次別にくらべてみると,全般的にいって逐年減少の傾向にあることがわかる。その原因について即断を下すことは危険であるが,精神病床の増加などの精神衛生対策の強化を重要な原因の一つとして挙げることができよう。
 なお,そのほか,官庁統計の中には,犯罪原因または動機として「精神異常」の項目を掲げているものもあるが,その判定はかならずしも専門家の診断によらないので,資料としての信頼性に乏しい。そこで,種々の犯罪者について,これまでわが国の専門家の手によってなされた調査研究の成果を整理し,信頼性のある諸外国の研究成果と比較対照しながら,精神障害と犯罪との関係を究明してみたい。