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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第一章/一 

一 新受刑者数の減少

 裁判所で懲役または禁錮等自由刑の実刑の言渡を受け,刑務所に収容される者を新受刑者とよんでいるが,昭和三五年の新受刑者の数は,戦後の最低を記録し,四一,〇〇八人となった。昭和一〇年以降の新受刑者の増減をグラフで示すと,I-1図にみるように,戦争直後は急激に増加し,昭和二三年には七万人台をこえたが,その後は多少の高低をとりながらも減少傾向をたどって昭和二九年には四万八千人台になり,昭和三〇年には五万四千人台に再び増加したが,その後年とともに減少をつづけ,昭和三五年に至った。昭和三五年の数は,戦前の昭和一一年より少なく,昭和一〇年の四一,〇九三人にほぼ匹敵する数である。もっとも人口が増加すればそれだけ犯罪者の数も増加するわけであるから,戦前との比較をする場合には,人口との対比において行なう必要がある。そこで有責人口一〇〇万人に対する新受刑者の数をみると,昭和一〇年には九一〇人であったのに対して,昭和三五年には六一四人であるから,人口との関連において考えるならば,最近の新受刑者の減少は著しいものがあるといえる。

I-1図 新受刑者数(昭和10-35年)

 もっとも,新受刑者の増減を戦前と戦後について比較する場合には,両時期における検挙力の相違,刑の執行猶予率の増減等を考慮しなければならないので,戦前に比して減少傾向にあることがにわかに好ましい傾向にあるということはできないが,戦後における最近の減少傾向は,それ自体として考えるならば,好ましい傾向ということができるであろう。なぜならば,それは懲役,禁錮の実刑を科するに値する犯罪の減少を意味し,それだけ悪質または重大な犯人が減ったことを示すと考えられるからである。最近犯罪の凶悪化または暴力化が著しいといった悲観的な報道が少なくないが,新受刑者数が減少しつつあるという事実は,これと一見矛盾したような印象をわれわれに与えるのである。ところで,懲役,禁錮の実刑を言い渡すのは裁判所であるから,次に,裁判の言渡状況をながめてみよう。