次に，第1編第2章第6節に掲げた法務省刑事局が調査，収集した精神障害やある犯罪者に関する資料を分析し，精神障害のある犯罪者め累犯の特色を見ることとする。なお，この場合，精神障害のある犯罪者については，心神喪失等により無罪又は不起訴とされ，前科とならないことがあることにかんがみ，前科だけではなく，前歴をも見ることとする。
　IV-11表は，これらの対象者3,978人について本件罪名別に本件犯行前10年間の前科前歴の有無を見たものである。対象者中，1,713人(43.1%)が前科前歴を有するが，罪名別では，強姦・強制猥褻(51.2%)及び強盗(50.4%)などで前科前歴保有者の比率が高くなっている。また，前科前歴保有者中，2回以上の前科前歴保有者は1,171人(前科前歴保有者の68.4%)であり，罪名別では，強盗48人(同67.6%)，傷害180人(同64.5%)及び放火88人(同56.8%)などで2回以上の前科前歴保有者の比率が高くなっている。
　IV-12表は，対象者中，殺人，放火，強盗，傷害，傷害致死及び強姦・強制猥褻を本件罪名とする者について，病名別に本件犯行前10年間の前科前歴の有無を見たものである。上記6罪名を本件罪名とする者は2,335人であるが，うち750人(32.1%)が前科前歴を有している。病名別に前科前歴保有者数及びその比率を見ると，覚せい剤中毒では94人中79人(84.0%)，アルコール中毒では269人中131人(48.7%)となっていて，前科前歴保有者の比率が高く，以下，精神病質では24人中9人(37.5%)，精神薄弱では65人中24人(36.9%)，てんかんでは48人中16人(33.3%)，精神分裂病では1,340人中380人(28.4%)，そううつ病では200人中36人(18.0%)などとなっている。

IV-11表　精神障害犯罪者の罪名・前科前歴の有無別人員(昭和58年〜62年の累計)

IV-12表　精神障害犯罪者の精神障害名・前科前歴の有無別人員(昭和58年〜62年の累計)

　さらに，前科前歴の内容を分析して精神障害者の累犯の特性を見てみよう。IV-13表は，対象者中の前科前歴保有者1,713人について本件罪名と直近の前科前歴となった事件の罪名との関係を見たものである。本件罪名と同一罪名の直近の前科前歴を有する者は，殺人で183人中22人(12.0%)，放火で155人中16人(10.3%)，強盗で71人中14人(19.7%)，強姦・強制猥褻で44人中12人(27.3%)，傷害で279人中98人(35.1%)などとなっているが，他人の生命，身体に対して危害を加える犯罪である殺人，傷害，傷害致死の3罪名を包括して見ると，本件と直近の前科前歴の罪名とが合致する者は480人中192人(40.0%)となっている。次に，上記前科前歴保有者1,713人中，直近の前科前歴となった犯行の際にも精神障害が認められた者は521人である。IV-14表は，この521人について，本件罪名と直近の前科前歴となった事件の罪名との関係を見たものである。本件罪名と直近の前科前歴の罪名が同じ者は，殺人で49人中14人(28.6%)，強盗で28人中10人(35.7%)，傷害で92人中21人(22.8%)，強姦・強制猥褻で14人中4人(28.6%)，放火で41人中8人(19.5%)などとなっている。また，殺人，傷害，傷害致死の3罪名を包括して見た場合における本件と直近の前科前歴の罪名が合致する者は，145人中56人(38.6%)となっている。

IV-13表　精神障害犯罪者の本件罪名・直近前科前歴罪名別人員(昭和58年〜62年の累計)

IV-14表　精神障害犯罪者の本件罪名・精神障害に係る直近前科前歴罪名別人員(昭和58年〜62年の累計)

　第1編第2章第6節の「精神障害者の犯罪」で述べたとおり，殺人，放火等の重大犯罪を犯した者の中には，精神障害者が相当数いるが，精神障害犯罪者には，前科前歴保有者の比率が比較的高く，中でも同種犯罪を繰り返す者がかなり認められ，しかも前回の犯行の際にも既に精神障害が認められた者が相当数いるなど，53年版白書の指摘したような事態が依然として存在することが注目される。