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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/1 

1 危険な常習的犯罪者

(1) 概  説
 まず,53年版白書と同様,人の生命・身体に危害を与え,又は与えるおそれがあって社会的に危険な典型的犯罪と言える殺人,強盗・同致死傷,強盗強姦・同致死,放火,強姦・同致死傷,強制猥褻・同致死傷,傷害・同致死の各罪(以下,これらの罪を「指定犯罪」という。)を二度以上繰り返して犯し,その都度自由刑に処せられている者について,その特性,犯罪の態様,犯罪反復の状況などを中心に,この種累犯者の危険な実態を見ることとする。
 IV-8表は,昭和57年から61年までの5年間において,刑務所に入所した新受刑者,そのうちの再入者,さらに,これらの者のうち本刑罪名あるいは前刑罪名が指定犯罪であるものなどの数を矯正統計年報により調査し,その年間平均人員や相互の比率などを算出し,これを財産犯の典型である窃盗の場合と比較して示したものである。
 この5年間の年間平均人員で見ると,新受刑者総数は3万1,296人(昭和47年から51年までの5年間の年間平均人員では,2万6,800人)であり,そのうち指定犯罪による新受刑者数は4,302人(同5,192人)で,その比率は13.7%(同19.4%)となっている。指定犯罪による新受刑者数は,10年前と比べ実人員,比率共に減少しているが,この種の犯罪は,53年版白書の指摘するとおり,それ自体社会的危険性の高い重大犯罪である場合が多いという意味において,量よりむしろ質の面を重視すべきである。
 次に,本刑罪名が指定犯罪である新受刑者に限って見ると,そのうち,再入者の占める比率は48.0%(同42.8%)であり,前刑罪名も指定犯罪であった再入者の占める比率は17.4%(同17.2%)である。また,本刑罪名が指定犯罪である再入新受刑者中では,前刑罪名も指定犯罪であった者の占める比率は36.1%(同40.2%)となっている。
 次に,前刑罪名が指定犯罪であった再入者は2,482人(同2,693人)であり,その新受刑者総数中に占める比率は7.9%(同10.0%)である。したがって,毎年の新受刑者100人中の8人は,指定犯罪による入所歴がある者であることになる。また,前刑罪名が指定犯罪であった再入者の中で,本刑罪名も指定犯罪である者は,747人(同895人)で30.1%(同33.2%)となっている。
 このように,53年版白書における指摘と同様,今次調査によっても,指定犯罪による入所歴のある者が再犯をする場合には,再びこの種の犯罪を犯す傾向の強いことがうかがわれる。さらに,これらの者のうち,前刑,本刑共に同一罪名によるもの(以下「単一型」という。)は,実数こそさほど多くはないが,53年版白書における指摘のとおり,最近でも毎年ほぼ一定数の者が存在することが注目される。昭和57年から61年までの5年間の各年におけるこれらの単一型累犯者の数を見てみると,例えば,前刑,本刑の罪名が共に殺人であった者は,57年が19人,58年が21人,59年が20人,60年が20人,61年が22人(47年から51年までの年間平均では,ほぼ16人)であり,共に放火であった者の各年における数は,10人,21人,16人,20人,20人(同ほぼ11人)となっており,共に強姦・同致死傷であった者は,48人,26人,35人,33人,31人(同ほぼ60人)となっているのであって,「危険な常習的犯罪者の典型」とされるこの種の単一型累犯者の動向は,依然として注視しなければならないと言えよう。
 ところで,指定犯罪と窃盗との関係について見てみると,本刑罪名が指定犯罪である再入者中,前刑罪名が窃盗である者の占める比率は19.4%(同27.7%)であり,さらに,本刑罪名が指定犯罪中の放火,強盗及び強盗致死傷である場合について言えば,前記比率は,34.6%ないし50.0%(同43.6%ないし57.1%)と一層高率となっており,今次調査においても,窃盗による入所歴のある者が再犯に至る場合には,この種の重大犯罪にはしる場合が少なくないことが認められる。

IV-8表 指 定 犯 罪 新 受 刑 者 の 再 犯 状 況

(2) 人格特性及び犯罪態様の特徴等
 法務総合研究所では,これら危険な常習的犯罪者の人格特性とその犯罪態様の特徴などを明らかにするため,昭和61年の再入新受刑者1万8,224人(前刑出所前の犯罪による再入者を除く。)のうち,前刑,本刑共に指定犯罪を犯したことによる受刑者680人を対象とし,これ以外の受刑者1万7,544人を比較対照群として,受刑者入所調査票に基づいて調査を行った。また,53年版白書と同様,便宜上,前刑,本刑共に凶悪犯(ここでは,殺人,強盗強姦・同致死及び強盗・同致死傷に限る。)によるものを凶悪犯型,同じく放火によるものを放火犯型,同じく性犯罪(ここでは,強姦・同致死瘍及び強制猥褻・同致死傷に限る。)によるものを性犯罪型,粗暴犯(ここでは,傷害・同致死に限る。)によるものを粗暴犯型とし,また,前刑と本刑とが異種の犯罪によるものを異種型として類型化し,この種類に従って犯罪者の特性を見ることとした。
ア 人格特性
 IV-9表は,これらの指定犯罪を繰り返している危険な常習的犯罪者(以下,本項において「対象者」という。)の幾つかの特性を,比較対照群のそれと対比して見たものである。
 類型別に対象者数を見ると,最も多いのは粗暴犯型の326人,次いで異種型の225人,性犯罪型の56人(うち,強姦・同致死傷の単一型31人,強制猥褻・同致死傷の単一型18人),凶悪犯型の53人(うち,殺人の単一型22人,強盗・同致死傷の単一型18人),放火犯型の20人となっている。まず,入所時の年齢層を見ると,対象者及び比較対照群共に,10年前の53年版白書における調査結果と比べ,20歳代の年齢層の占める割合が激減し,40歳以上の年齢層の占める割合が激増し,高年齢化が進んでいる。さらに,類型別に見ると,凶悪犯型の場合,30歳以上の年齢層が94.4%(前回調査時66.3%)を占めており,53年版白書で比較的30歳未満の年齢層が多いとされていた粗暴犯型及び性犯罪型においても,20歳代の年齢層の占める割合は,それぞれ13.5%(同40.2%), 12.5%(同38.0%)と激減しているのである。

IV-9表 危険な常習的犯罪者の人格特性(その1)(昭和61年)

IV-9表 危険な常習的犯罪者の人格特性(その2)(昭和61年)

 知能指数については,IQ80未満の者は,対象者では53.7%(前回調査時36.6%),比較対照群では53.6%(同36.9%)であり,両者の間に余り差はないが,10年前の調査結果と比較すると,対象者及び比較対照群共に知能指数の低いものが増加している。類型別に見ると,放火犯型では,IQ70未満の者が88.2%(同71.4%)を占め,知能指数の著しく低いものが目立って多く,この傾向は10年前より更に進行しているものと認められる。
 教育程度については,中学校程度以下の者は,対象者では76.6%(同82.1%)であり,比較対照群では70.5%(同77.7%)であって,教育程度は,いずれも10年前の調査結果と比べて上昇しているが,対象者は比較対照群より低い。
 精神障害の有無を見ると,精神障害のある者は,対象者では,5.8%(同11.4%)であり,比較対照群の4.1%(同5.9%)と比べて多く,特に放火犯型において顕著である。
 暴力団への加入の有無については,暴力団加入者は,対象者では41.1%(同39.5%)を占めており,比較対照群の29.1%(同28.3%)と比べて多く,10年前の調査結果と比較すると,対象者及び比較対照群共にその割合が増加している。類型別では,暴力団加入者は,粗暴犯型で57.4%(同53.0%),異種型で35.1%(同40.7%),凶悪犯型で17.0%(同11.9%)となっており,10年前の調査結果と比べ,粗暴犯型及び凶悪犯型において,暴力組織加入者が増加してきているのが気に懸かるところである。一方,放火犯型と性犯罪型では暴力団加入者は少ない。
イ 犯罪反復の状況
 IV-10表は,対象者の犯罪反復の状況を比較対照群のそれと対比して見たものである。刑法上の累犯に当たる者の占める割合は,対象者では73.9%(前回調査時84.2%)であり,比較対照群の87.8%(同83.5%)よりやや低いが,類型別に見ると,放火犯型,性犯罪型,粗暴犯型では8割を超えている。入所度数を見ると,比較対照群では6度以上の者が26.2%を占めるなど多様であるのに対し,対象者では2度ないし3度の者が大半を占めている。また,類型別に見ると,粗暴犯型及び放火犯型に5度以上の多数回入所歴のある者が多い。
 前刑出所事由について見ると,満期釈放となった者の比率は,対象者では60.7%(同53.1%)であり,比較対照群の52.7%(同52.7%)と比べ高くなっており,類型別に見ると,粗暴犯型及び放火犯型に満期釈放が比較的多く,一方,凶悪犯型及び性犯罪型に仮釈放が比較的多い。また,再犯期間(前刑出所時から本刑に係る犯罪を犯すまでの期間)については,出所後1年未満の再犯は,対象者では3割強であり,比較対照群の5割弱と比べた場合には,再犯期間が比較的長いと言える。これを類型別に見ると,出所後1年未満の再犯は,凶悪犯型で24.6%(同37.3%),放火犯型で50,O%(同42.9%),性犯罪型では41.1%(同44.6%),粗暴犯型では34.6%(同35.8%),異種型では27.9%(同27.0%)である。また,出所後5年以上経過して再犯している者は,凶悪犯型では45.3%(同27.1%),異種型で36.9%(同19.7%)と多くなっている。

IV-10表 危険な常習的犯罪者の犯罪反復の状況(その1)  (昭和61年)

IV-10表 危険な常習的犯罪者の犯罪反復の状況(その2)  (昭和61年)

 このように,危険な常習的犯罪者については,本刑が指定犯罪である新受刑者,前刑が指定犯罪である再入者及び本刑,前刑共に指定犯罪である再入者が,それぞれ実人員,比率共に減少し,また,本刑,前刑共に指定犯罪である再入者については,高齢化が進む反面,将来の犯罪情勢を考慮する際重視すべき「若年層」が著しく減少しているなど,10年前の調査結果と比較した場合,好転したと見られる点もあるが,殺人,放火及び強姦・同致死.傷など凶悪犯罪を繰り返す単一型累犯者が毎年一定数認められるなど,なお楽観できぬ情勢にあるものと思われる。