以上のような犯罪者の社会内処遇に関与する保護司の活動に対して,国民はどのような評価をしているであろうか。「総理府世論調査」においては,「保護司は,犯罪者を更生させるよう指導しているが,その活動は犯罪者の立ち直りに役立っている。」かどうかについての質問に対し,(ア)「そう思う」,(イ)「そうは思わない」,(ウ)「一概に言えない」の選択肢を設けて回答を求めている。また,法務総合研究所では,これと同じ質問と回答選択肢をもって,「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」を行い,受刑者及び受刑者の家族に対して,保護司の処遇活動についての意識を問うている。これらの結果をまとめたのがIV-42表である。
IV-42表 保護司の活動に対する国民の評価(保護司の活動は,犯罪者の立ち直りに役立っている。)
まず,最初に目に付くことは,保護司の処遇効果について,「そう思う」と肯定的に評価をした者の割合は,一般国民では40.3%,受刑者では42.1%,受刑者の家族では62.0%に上っており,この数字は,今回の「総理府世論調査」,「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」において,他の刑事司法関係機関の活動に対して肯定的評価をした者の割合,すなわち,「犯罪の取締り・犯罪者の検挙を扱う機関」についてのそれ(一般国民33.6%,受刑者31.2%,受刑者の家族30.5%)及び「刑務所」についてのそれ(一般国民36.8%,受刑者33.3%,受刑者の家族53.0%)をかなり上回っているとともに,「そうは思わない」と否定的に評価した者及び「一概に言えない」と結論を留保した者の割合は,上記の機関の活動に対して否定的に評価した者及び結論を留保した者の割合よりも相当低くなっており,全体として,国民の比較的多くの者が,保護司の活動の効果を積極的に評価していると見られることである。その反面,「わからない」と回答した者の割合は,一般国民では26.4%,受刑者では19.4%,受刑者の家族では26.0%となっており,全般的に,上記の機関の活動について「わからない」と回答した者の割合(「犯罪の取締り・犯罪者の検挙を扱う機関」につき,一般国民14.3%,受刑者12.8%,受刑者の家族33.3%,「刑務所」につき,一般国民16.5%,受刑者8.4%,受刑者の家族19.8%)よりも高いことが注目される。なお,保護司の処遇活動が犯罪者の立ち直りに役立っていることを肯定的に回答した者(以下「肯定回答」という。)の率は,前記のとおり,一般国民,受刑者及び受刑者の家族を通じて,それぞれ最も高い比率となっているところ,特に,受刑者の家族の肯定回答が一般国民や受刑者のそれに比べて際立って高く,他方,「そうは思わない」と回答した者(以下「否定回答」という。)は,三者を通じて最も低い率となっているが,その中でも,一般国民の7.1%及び受刑者の12.6%に対し,受刑者の家族では1.4%と著しく低く,一般国民では,肯定回答が否定回答の5.7倍,受刑者では3.4倍となっているのに対し,受刑者の家族の場合は,実に,45.1倍と著しく高く,保護司の活動の効果が,特に,受刑者の家族から高く評価されていることを示す結果となっている。さらに,子細に見ると,男女別では,一般国民及び受刑者の家族においては,男子の方が女子よりも肯定回答及び否定回答ともに高いこと,作表してはいないが,受刑者の家族の中では,受刑者の妻(内妻を含む。)及び父親の肯定回答がともに否定回答の59.0倍,母親では57.0倍とそれぞれ極めて高いことを指摘することができ,一般国民について年齢層別に見ると,IV-43表のとおり,保護司の処遇活動を評価する肯定回答をした者の割合が高いのは,60歳代と50歳代で,この年代では,全体の肯定回答の割合(40.3%)を上回っているが,全般的には,年齢層によってさほどの差異は認められない状況となっている。
IV-43表 保護司の活動に対する一般国民の評価(年齢層別)(保護司の活動は,犯罪者の立ち直りに役立っている。)
そこで,次に,保護司の活動を肯定的に評価した者だけを取り上げて,いかなる層の者が保護司の活動をより高く支持しているかを見るため,一般国民・受刑者・受刑者の家族別,男女別,年齢層別に,その評価状況を対比したのがIV-44表である。これによると,一般国民の場合は,男女の別により,あるいは年齢層により,肯定回答率に較差が見られるのに対して,受刑者の家族の場合は,男子では,30歳代及び70歳以上を除き,各年齢層とも70%台の高い肯定回答率を示し,女子では,実人員が少ない20歳未満を別にすると,受刑者の母親の年代に相当するような比較的年齢の高い層の者が肯定回答をする比率が高いという傾向を示している。
IV-44表 保護司の活動を肯定的に評価した者の年齢層別内訳(保護司の活動は,犯罪者の立ち直りに役立っていると思う。)
他方,受刑者及び受刑者の家族について,初入者・再入者の別に,回答結果を見ると,IV-45表のとおり,受刑者の場合は,肯定回答をした者の率は,初人者と再入者でほとんど較差が見られないが,否定回答をした者の率は,再入者が初人者の約2倍となっており,受刑者の家族の場合は,肯定回答をした者の率は,初人者の家族が再入者の家族よりもやや高いが,否定回答をした者の率は,初人者,再入者のいずれも極めて低く,その差はほとんど見られない。再入所した受刑者の中に保護司の活動の効果を否定的に評価する者が多いのは,かつて保護司の指導と援助を受けたにもかかわらず,再び犯罪を繰り返して入所した者も含まれており,それらの者の一部が保護司の活動を低く評価していることによるものであろうか。
IV-45表 保護司の活動に対する受刑者及び受刑者の家族の評価(初入・再入別)(保護司の活動は,犯罪者の立ち直りに役立っている。)
以上のとおり,今回の調査では,保護司の行っている処遇活動の効果についての国民の評価は,保護司についての認識や知識を有する者の間では,全般的に高く,その数字は,「そうは思わない」と否定的に評価する者及び「一概に言えない」と結論を留保する者を加えた数字をも上回っていること,このような傾向は,回答結果の個別的分析結果によっても,おおむね同様に維持されていることなどからして,保護司の活動は,受刑者及び受刑者の家族を含め,年齢層別,男女別を問わず,広く各層からかなりの評価を受けていると言ってよいであろう。その中でも,とりわけ,受刑者の家族からは,著しく高い評価が寄せられているが,これは,受刑者の改善更生と円滑な社会復帰を切望する家族の保護司に対する信頼とその活動に対する期待の表れと解することができる。しかしながら,その反面において,上記のとおり,「わからない」と回答した者が相当数存在し,その割合は,一般国民と受刑者の家族のほぼ4人に1人,受刑者のほぼ5人に1人と比較的高くなっていることは,保護司の活動が必ずしも国民全般に周知されていないことを示唆するものとして考えさせられるものがある。また,「一概に言えない」と結論を留保する回答が何を意味するかは必ずしも明らかではないが,このような留保回答をした者は,受刑者の家族では10.6%と低いものの,一般国民では26.2%,受刑者では25.9%と相当高率になっていることにも留意を要するものがあろう。もともと,保護司の活動の個々具体的な状況は,保護観察対象者などの人権に対する配慮からも,秘密にされなければならない面が多く,これが国民の保護司の活動に対する認識を低からしめる結果をもたらす原因となっているであろう事情は否定できないが,他方,保護司の活動は,地域社会に基盤を置き,地域住民の協力を得て,初めて有効性を発揮し得るものであることも忘れられてはならない。,その意味において,今回の調査結果は,今後とも,保護司の活動に関し,国民の理解と協力を得るための努力を続ける必要性を示しているものと言えようか。