前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節 

第3節 刑務所の役割

 刑務所とは,自由刑の執行のため拘置される者を収容し,これらの者に対し必要な処遇を行う施設と言ってよいであろう。しかし,刑務所の役割についての一般の認識は,恐らくは,犯罪者を収容し,その自由を剥奪するという程度にとどまり,受刑者に対していかなる理念の下に具体的にどのような処遇を行っているかというところにまでは及んでいないと思われる。他方,学者や実務家の間では,これまでも刑務所の役割について種々の論議が展開されてきており,応報,隔離及び犯罪抑止に重点をおく考え方や,教育,社会復帰及び改善訓練に力点をおく考え方が主張されてきたが,今世紀に入ってからは,世界的な動向として,単なる応報・隔離主義による行刑の諸弊害についての反省の下に,おおむね人道主義に立つ刑罰思想が行刑の分野にも浸透してきたと言ってよいであろう。もっとも,近年では欧米各国において,著しい累犯者の増加,刑務所における甚だしい過剰拘禁状況,刑務所暴動の頻発等の諸実情を踏まえ,犯罪者を刑務所等の施設に収容することは,改善更生の面でも再犯防止の面でも効果がないとして,国家財政の視点からも,犯罪者に対しては社会内処遇を中心とすべきであるとする施設内処遇についての消極論や否定論が台頭してきている。これらの種々の考え方は,当該刑務所の置かれている国の犯罪・社会情勢や財政事情,特定の刑務所において実施した処遇の成果,さらには,刑罰というものをいかに捉えるべきかということなどに関する当該論者の刑罰観を背景とした上での主張であるから,その当否について,一概に結論を下すわけにはいかないが,我が国においては,現在の刑務所における収容者総数は,戦後の混乱期のピークの約半分であること,社会不安を惹起するような刑務所暴動の発生もなく,行刑秩序は平穏に保たれてきていることなどの諸実情の下に,刑務所における処遇に意義を認め,その目的を犯罪者の改善更生と再犯防止におくようになって久しい状況にある。
 そこで,本節では,このような方針の下における行刑施策の実施に関し,まず,処遇の対象者たる当の受刑者及び受刑者の家族がこれをどのように認識しているかを見た上,一般国民が刑務所の役割をいかに評価しているかを探ることとする。