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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/2 

2 現在の量刑についての国民の受け止め方

 「総理府世論調査」においては,「裁判における量刑(刑の重さ)は,適切に行われている。」かどうかについての質問に対し,(ア)「重すぎると思う」,(イ)「適切だと思う」,(ウ)「軽すぎると思う」,(エ)「一概に言えない」の選択肢の下に回答を求めている。また,法務総合研究所では,これと同じ質問と回答選択肢をもって,「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」を行った。その結果をまとめたのがIV-32表である。

IV-32表 現在の量刑についての国民の評価(裁判における量刑は,適切に行われているか。)

 まず,量刑が,「重すぎると思う」とする者は,一般国民ではわずか1.0%であるのに対し,受刑者では22.4%の多きに上り,受刑者の家族ではそのほぼ中間の11.8%となっているが,逆に,量刑が,「軽すぎると思う」とする者は,一般国民では18.7%に達しているのに対し,受刑者ではわずか1.1%にとどまり,受刑者の家族では3.3%となっており,一般国民と受刑者では,量刑感覚に大きな差があると認められる。ちなみに,「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」では,これに加え,「今回あなたが犯した事件に対する判決は,あなた自身がはじめに考えていたこととくらべてみて,どのように思いましたか。」(対受刑者),「今回の本人に対する判決について,あなたは,刑が重いと思いますか,あるいは軽いと思いますか。」(対受刑者の家族)との質問を設け,受刑者に対しては,1「かなり重かった」,2「少し重かった」,3「大体予想どおり」,4「少し軽かった」,5「かなり軽かった」,6「わからない」との選択肢の下に回答を求め,受刑者の家族に対しては,1「かなり重い」,2「やや重い」,3「重くも軽くもない」,4「やや軽い」,5 「かなり軽い」,6「わからない」との選択肢の下に回答を求めているが,その結果を集計したのがIV-33表である。量刑一般についての質問の場合において「一概に言えない」及び「わからない」と回答した者は,受刑者で合計48.9%,受刑者の家族で合計56.8%にも上っていたのに対し,自己又はその身内の者の処分に関する質問に対しては,さすがに,「わからない」と回答した者が受刑者でわずか4.5%,受刑者の家族でも32.0%にとどまり,「かなり重かった」あるいは「かなり重い」と,「少し重かった」あるいは「やや重い」の合計は,受刑者で53.0%,受刑者の家族でも38.0%に及んでいる。その一方において,「少し軽かった」及び「かなり軽かった」とする受刑者も合計で12.0%に達し,また,「予想どおり」とする者が30.5%もいることは注目に値するが,前記のとおり,受刑者の量刑感覚と一般国民のそれとの間には大きな開きがあると認められる中で,自己の服役の原因となった具体的判決に対してこのような評価をする受刑者が相当数存在することは,現在の量刑が,被告人の立場をも相当に考慮していることを反映したものと言えようか。

IV-33表 服役する原因となった具体的判決に対する受刑者及び受刑者の家族の評価(今回の判決をどう思ったか。)

 これに対し,忘れてならないのは,被害者の側から見た量刑感覚である。法務総合研究所は,昭和50年に,前記(本編第2章第4節)のとおり,生命・身体犯の被害者等に関する実態調査を実施しているが,同調査で抽出した917件の事件から,さらに,同一家族内の犯罪,傷害の程度が軽微なもの,被害者や遺族が死亡・居所不明などのため調査困難なものを除いた合計200件(傷害77件,死亡123件)を取り上げ,翌51年にこれらの事件の被害者又はその家族に,直接,面接して被害者調査を行い,その中で,生命・身体犯の被害者等から見た量刑感覚についての意識調査をも行っているが(法務総合研究所研究部紀要20,1977年版1頁以下参照),その結果は,IV-34表のとおりである。これによれば,自己が被害者等となった事件の加害者に対する判決結果を知っている者の中で,当該量刑が「重すぎる」とした者は,傷害事件については皆無,死亡事件についてはわずか1.4%もあるのに対し,「軽すぎる」とした者は,傷害事件で45.0%,死亡事件では73.2%に達しており,資料は若干古いとはいえ,上記「受刑者調査」の結果と際立った対照を示していることが特に注目される。

IV-34表 生命・身体犯の被害者等による量刑の評価等

 ところで,既に,前項で,強盗致死事犯についての量刑について地域別の状況を見たが,それぞれの地域住民は,量刑を,全体として,どのように評価しているのであろうか。この点に焦点を絞って,全国を九つの地区に分け,「総理府世論調査」の結果をそれぞれの地区ごとに整理したのがIV-35表である。強盗致死事犯に対して,その数は少ないものの,法定刑の範囲内で刑を言い渡す率が最も高かった東北地区(仙台高裁管内)と最も低かった四国地区(高松高裁管内)のそれぞれの地域住民について,量刑は「適切と思う」とする者の率を見ると,東北地区は36.5%と全国で最も高く,四国地区は33.7%と全国第2位の高率となっている。この数字で見る限り,東北地区及び四国地区においては,前記のとおり,同事犯における量刑傾向が統計上相互に両極を示しているにかかわらず,それぞれの地域住民は,他の地域の住民に比し,同事犯の量刑をも含めた裁判における量刑に信頼を置いていると見ることができようか。他方,関東地区内の東京都と近畿地区内の大阪府を比べて見ると,量刑を「適切と思う」とする率は東京都が30.0%,大阪府が27.3%と東京都の方が高く,「重すぎる」とする率は東京都が1.7%,大阪府が0.6%と大阪府が低く,反対に,「軽すぎる」とする率は東京都が17.4%,大阪府が19.9%と大阪府が高い結果となっている。

IV-35表 一般国民の量刑感覚と地域性(裁判における量刑は,適切に行われているか。)

 しかしながら,「総理府世論調査」の回答結果では,どの地域においても,量刑の軽重について,「一概に言えない」及び「わからない」とする者が合計して50%前後に達していることに留意しなければならない。IV-34表によれば,重大な生命・身体犯における被害者ですら自己に危害を加えた犯人に対する判決内容を不知と答えている者が30%前後に上っているのであって,犯罪に無関係の多くの一般国民は,量刑問題について正確な判断を下し得るような情報は得ていないのが一般であろうと思われ,このような前提で考察すれば,前記の「一概に言えない」及び「わからない」の回答数値には相当の重みがあり,これを軽視することは許されないであろう。