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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/1 

1 統計資料から見た強盗致死事件の量刑

 量刑問題一般について考える場合には,量刑の傾向が犯罪の種類によって当然異なり得るものであることにかんがみれば,犯罪類型ごとの観察が必要となるが,ここでは,試みに,時代と地域を通じ比較的共通して発生する犯罪で,しかも,一般には,特に凶悪かつ重大な犯罪と認識されていると思われるもので,法定刑に死刑と無期懲役刑の定めしかない強盗致死罪を取り上げ,同罪の第一審における量刑状況について,時代的変遷をたどるとともに,地域間の比較をしてみることとした。強盗致死罪が適用される事犯に対しては,原則として,死刑又は無期懲役刑のいずれかの刑罰しか科し得ないが,しばしば例外的に,刑の減軽がなされて有期懲役刑も科せられている。もとより同罪を犯した者に対していかなる刑が選択適用されているかは,個々の事件における個別的事情を考慮しなければならないものではあるが,これら事件の個性を捨象して,同罪についての量刑を統計的に見ることも,その時代と地域における傾向を考える上で,一つの手掛かりとなり得るものと思われる。
 まず,司法統計年報により,昭和25年から5年ごとの単位で,同罪についての第一審の死刑,無期懲役刑及び有期懲役刑の適用状況を見た結果は,IV-30表のとおりである。死刑言渡率は,20年代後半から40年代後半までの間に,16.5%から5.1%にまで急低下しているが,その後若干上昇に転じている。一方,無期懲役刑の言渡率は,30年代の後半以降においては,40年代の後半を除いて,45%を超える比較的高い水準を維持している。他方,有期懲役刑の言渡率は,おおむね40%台で推移しているが,40年代の後半のみが55.2%と突出している。これらの統計資料から見る限り,強盗致死罪が適用される事案に対する第一審の量刑は,25年から49年までの比較的短い期間に,死刑の適用件数が相対的に減少し,無期懲役刑及び有期懲役刑の適用件数の合計は相対的に増加しているほか,特に,40年代後半においては,同罪に有期懲役刑を適用する事例が過半数を超えるという,言わば原則と例外の逆転ともいうべき特異な現象も見られる。強盗致死罪による有罪人員総数は,第二次世界大戦直後の一時期に極度に悪化した犯罪情勢が回復に向かうのと軌をーにして,20年代から着実に減少を続けており,これが量刑にも微妙な影響を及ぼしている可能性を考慮する必要があるにしても,ごのような短い期間における急激な死刑適用の減少には,注目に値するものがあろう。

IV-30表 強盗致死事件についての第一審における宣告刑の推移(昭和25年〜59年)

 次に,最高裁判所事務総局総務局統計課から提供を受けた資料により,高等裁判所管内別に,それぞれの管内における第一審の強盗致死罪を適用した事案に対する言渡刑名・刑期別有罪人員を,昭和53年から60年までの8年間における累積人員で見たのがIV-31表である。本表は,8年間の数字を合計したものであるが,法定刑どおりの刑の言渡しがなされた率を高等裁判所の管内別に見ると,最も高いのは仙台高等裁判所管内の75.0%で,最も低いのは高松高等裁判所管内の35.3%であり,言渡件数の多い東京と大阪の両高等裁判所管内を対比すると,東京高等裁判所管内が64.3%に対し,大阪高等裁判所管内は50.5%となっている。また,法定刑中,無期懲役刑を選択した上これを軽減した場合における処断刑の下限(懲役刑7年)又はこれを更に下回る有期懲役刑を言い渡した率は,東京高等裁判所管内が合計で4.2%にとどまるのに対し,大阪高等裁判所管内は15.5%に達している。以上は,前記のとおり8年間の累積人員で見た統計上の数値であるが,これら種々の数値が何を意味し何に由来するかは,今後,更に検討する必要があろう。

IV-31表 強盗致死事件についての高等裁判所管内別に見た第一審言渡刑名・刑期別有罪人員(昭和53年〜60年)