IV-18表は,最近5年間の傷害事件の認知件数と検挙人員を見たものである。認知件数は漸次減少の傾向にあり,昭和56年を100とすれば,60年は87となっている。これに伴い,検挙人員も同様に減少傾向をたどっており,特に,暴力団関係者以外の一般成人の検挙人員が減少しており,56年を100とすれば60年は79となっている。なお,傷害事件は暴力事犯の典型的なものであるだけに,検挙人員中に占める暴力団関係者の割合が高く,56年から60年までの5年間で見ると,検挙人員中に占める暴力団関係者の割合は,刑法犯全体では6%ないし7%台であるのに対し,傷害事犯においては,少年を含めた全体で24%ないし27%台,成人では34%ないし36%台となっている。
IV-18表 傷害事犯の認知件数及び検挙人員(昭和56年〜60年)
IV-19表は,傷害罪を犯した者についての検察庁の処分状況を,暴力団関係者と一般人に分けて見たものである。刑法犯の中では,傷害罪の起訴率が最も高く,昭和60年で見ると,一般人及び暴力団関係者を含めた全体では83.2%と,強盗罪(78.7%),交通関係業過(73.0%)あるいは殺人罪(65.7%)のそれらをかなり上回っているが,同じ傷害罪にあっても一般人と暴力団関係者とを対比してみると,前者の起訴率が81.6%であるのに対して,後者の場合は92.8%で極めて高く,しかも,,起訴人員における公判請求率(公判請求人員/起訴人員×100)は,一般人が20.8%であるのに対し暴力団関係者を54.4%と高率で,暴力団関係者に対してはかなり厳しい処分がなされていることがうかがわれる。一般人に対する起訴は,おおむね略式命令請求によってなされており,その率は,同年においては79.2%であるが,暴力団関係者に対するそれは45.6%にとどまっている。なお,傷害罪を犯した犯人が初犯者であるか前科者であるかによりその処分に差異が生ずるかどうかを見ると,作表してはいないが,同年においては,初犯者の起訴猶予率は21.0%,前科者のそれは8.6%となっており,また,起訴された者の内訳は,初犯者が42.1%,前科者が57.9%となっている。
IV-19表 傷害事件被疑者に対する検察庁の処理状況(昭和56年〜60年)
それでは,傷害罪を犯して起訴された者の量刑はどのようになっているのであろうか。IV-20表は,最近5年間において,全国の地方裁判所及び簡易裁判所で傷害罪により裁判がなされた被告人に対する量刑の状況を見たものである。傷害罪においては,罰金刑に処せられる者の割合が極めて高率であるが,これは,検察庁の処分に当たって略式命令を請求される者が多いことに対応するものであって,そのほとんどは簡易裁判所の略式命令によるものである。ちなみに,昭和60年においては,傷害罪により処断された者の77.1%に罰金刑が科せられているが,この割合は,ここ数年あまり変わっていない。また,公判請求された者の中では,短期刑に処せられる者が多く,同年に傷害罪により処断された被告人のうち,22.5%の者が有期懲役刑の言渡しを受けているが,その99.4%は,3年以下の刑を言い渡されている。執行猶予率は50.0%であり,実刑に処せられた者は総数の11.2%にすぎない。
IV-20表 傷害事件被告人に対する地方裁判所及び簡易裁判所の裁判結果(昭和56年〜60年)