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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第2章/第3節/2 

2 親殺し,子殺し犯の処罰についての国民の考え方

 「総理府世論調査」においては,親殺し,子殺しに関し,「一般論として,子が親を殺した場合の処罰について,あなたはどのように思いますか。」及び「一般論として,親が子を殺した場合の処罰について,あなたはどのように思いますか。」のそれぞれの質問に対し,(ア)「普通の殺人罪より重く処罰すべきである」(以下「重く処罰」と要約する。),(イ)「普通の殺人罪と同じに取り扱えばよい」(以下「同じ扱い」と要約する。),(ウ)「普通の殺人罪より軽く処罰すべきである」(以下「軽く処罰」と要約する。)との選択肢を設けて,一般国民に回答を求めている。また,法務総合研究所では,これと同じ質問及び回答選択肢により,「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」を行っている。これらの結果をまとめたのがIV-16表である。
 まず,親殺しについて見ると,一般国民,受刑者及び受刑者の家族のいずれにおいても「重く処罰」を選択する者の率が最も多いが,その中でも,一般国民の33.2%がこれを選択しているのに対して,受刑者は46.0%,受刑者の家族は38.5%と一般国民より高い選択率を示しており,これらの者が親殺しについて厳しい考え方をしていることを示す結果となっている。なお,作表してはいないが,一般国民の中で「重く処罰」を支持する者は,男子の34.1%,女子の32.5%であり,年齢層別に見ると,20歳代でかなり多くの者(37.5%)がこれを選択しているのが注目されるほか,50歳代(合計34.0%,男子34.5%,女子33.5%)及び60歳以上(合計36.6%,男子40.9%,女子32.3%)においてこれを選択する率が高く,尊属殺による被害者の86.3%が50歳以上の者であるという上記の事実に照らせば興味深いものがある。受刑者の中で「重く処罰」を選択した者の状況を見ると,殺人(62人中の41.9%が選択)及び傷害(同様154人中の41.6%)を犯して入所した者の選択率は,恐喝(同様96人中の52.1%),覚せい剤事犯(同様710人中の49.9%),窃盗(同様748人中の45.5%)を犯して入所した者の選択率よりもやや低くなっている。次に,「わからない」の回答を除き,選択率が二番目に高かったのは,「同じ扱い」であるが,一般国民では29.9%(男子30.4%,女子29.6%)がこれを選択し,その率は,「重く処罰」を選択した者の率とさほど変わらないのに対して,受刑者では24.1%,受刑者の家族では20.1%と比較的少なくなっている。なお,作表してはいないが,「同じ扱い」を選択する者の率は,学歴が高くなるほど高くなる傾向が見られる。また,「軽く処罰」を選択した者は,一般国民,受刑者及び受刑者の家族のいずれにおいても少数にすぎない(一般国民10.1%,受刑者13.7%,受刑者の家族4.1%)が,「わからない」と回答した者が,一般国民で20.5%(男子18.6%,女子22.1%),受刑者の家族で29.4%(男子24.3%,女子31.5%)にも上っていることに留意する必要があろう。

IV-16表 親殺し・子殺しを犯した者に対する処罰についての国民の考え方(子が親を殺した場合又は親が子を殺した場合の処罰)

 次に,子殺しについて見ると,ここでも,「わからない」の回答を除き最も選択率が高かったのは,一般国民,受刑者及び受刑者の家族を通じ,「重く処罰」であり (一般国民31.3%,受刑者33.4%,受刑者の家族28.3%),次いで,「同じ扱い」(一般国民30.2%,受刑者27.0%,受刑者の家族22.7%),「軽く処罰」(一般国民9.9%,受刑者22.2%,受刑者の家族10.5%)の順になっている。この結果からすれば,国民は,子殺しについてかなり厳しい考え方をしていると見ることができるが,これが,嬰児殺まで含めた意識であるかどうかは必ずしも明らかではない。ところで,「重く処罰」と「同じ扱い」は,上記のとおり,一般国民の選択率がきっ抗しているので,さらに,この両者について,一般国民におけるそれぞれの選択状況を詳しく見てみると,作表してはいないが,男女別では,「重く処罰」は男子の32.6%,女子の31.4%が選択しているのに対し,「同じ扱い」は男子の30.5%,女子の30.0%が選択し,いずれにおいても男女間に大きな差異は認められず,また,年齢層別に見ても,「重く処罰」及び「同じ扱い」を選択する者の率は,高い年齢層になるほど低下し,いずれもほぼ同じ割合で低くなる傾向にあり,子殺し犯を「重く処罰」すべきか「同じ扱い」とすべきかについては,男女別や年齢層を問わず,意見が二つに分かれていることを示している。ちなみに,受刑者について見ると,殺人罪により入所した者のみは「同じ扱い」を選択した者が最も多いが(32.3%),他の罪名により入所した者はいずれも「重く処罰」を選択した者が最も多い。以上に対し,子殺しについて「軽く処罰」を選択した者は,一般国民や受刑者の家族においては少数にとどまっているが,受刑者においては22.2%にも上っていることが注目される。他方,「わからない」と回答した者の率は,20歳代で14.5%,30歳代で17.6%,,40歳代で19.9%,50歳代で21.9%,60歳以上で27.2%と高年齢層になるほど高くなっている。
 なお,「親殺し」及び「子殺し」のそれぞれについての意見の分布はかなり類似しているが,この両者の関連性を見るために作成したのがIV-17表である。これによれば,親殺しで「重く処罰」を選択した者は,子殺しについても「重く処罰」を選択する傾向にあり,この傾向は,「同じ扱い」や「軽く処罰」を選択した者についても見られる。

IV-17表 親殺しと子殺しを犯した者の処罰についての各回答の関連(子が親を殺した場合又は親が子を殺した場合の処罰)

 このように見てくると,親殺し,子殺しの犯人に対する処罰の在り方について,比較的多くの国民は,親殺し,子殺しの犯人に対しては,普通の殺人よりも重く処罰すべきであると考え,それと同時に,親殺しを重く処罰するなら子殺しも重く処罰すべきであるとの意向を持っているように見受けられる。もっとも,具体的事例においては,親子間で殺害行為が行われるには,例えば,被害者に責めらるべき落ち度があるなどそれなりの事情が認められる場合もあるであろうし,また,加害者が精神に障害のある者であったという場合もあろう。今回の調査結果において,一般国民の意見が「重く処罰」,「同じ扱い」及び「わからない」に大きく分かれているのを見ても,問題の難しさが反映されているように思われる。