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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節 

第2節 少年による万引事犯について

 非行を犯した少年に対していかなる態度で臨むべきか,どのような処遇を行うのが最も適切であるかは,常に,古くて,かつ,新しい問題と言える。すなわち,非行少年の具体的事案において,当該少年をいかに処遇すべきかは,当該非行の内容や少年の前歴,資質,環境等を踏まえ,一般予防及び特別予防,特に,当該少年の健全育成と再犯防止の観点から適切に決せられなければならないことは言うまでもないが,社会の進展とともに,少年を取り巻く環境も変動し,非行の内容も変化するばかりか,当該非行に対する社会的評価すら変わっていく状況に照らせば,これらの変転状況を的確に把握し,非行少年の処理・処遇について絶えず検討と改善を加えていくことは,少年の処遇に関与する者にとって必要不可欠と考えられるからである。
 ところで,我が国の少年法は,いわゆる国親思想を基盤とし,非行を犯した少年には保護処分を優先適用することとしている。しかしながら,この制度の下においても,非行少年に対処すべき基本的考え方ないし姿勢には,少年を取り扱う専門家の間ですら,微妙な差異があるように見受けられ,例えば,犯罪を犯した年長少年に対し,刑罰の有する教育的効果や一般予防の面をどの程度重視して刑事処分の適用を認めていくか,家庭裁判所の果たしている役割とその有効性をいかに評価し,その決定により実施される保護処分の効果にどこまで期待を寄せるべきか,少年のどの程度までの逸脱行為を関係行政機関・団体,ボランティア等により組織されている少年補導センター等の地域組織の活動に委ねるべきか,さらには,成人に至るまでの精神的・身体的成長過程における一現象と見られるような少年の軽微な事犯について,司法関係機関等による公的措置を講ずる必要性はどの程度あるのか等の問題を中心に,見解が多岐に分かれているように思われる。
 それでは,一般国民は,非行少年の処遇についてどのような考え方をしているのであろうか。少年非行の典型的事案は,いわゆる万引きであろう。そこで,本節においては,少年による万引事犯を取り上げ,まずその実態について紹介し,次いで,万引きを犯した少年の処遇についての国民の考え方を探ってみることとする。