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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/1 

1 少年による万引事犯の実態

 少年非行の大半は窃盗事犯によって占められている。すなわち,少年非行の動向は,第3編第1章第1節において前述したとおりであるが,成人の刑法犯は,昭和21年以降現在に至るまでの間に,実数で約2.2倍,人口比では,6.9人ないし12.6人の間で推移しているのに対し,少年の刑法犯は,実数で約2.7倍に増加しているばかりか,人口比では21年から34年までの6人ないし8人台が,35年以降騰勢に転じ,特に,55年以降は15人ないし17人台に達するなど著しい増加現象が見られ,これを罪名別に見ると,61年においては,交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員23万5,176人の大半に当たる75.6%(17万7,766人)が窃盗罪を犯した少年によって占められている。そこで,次に,最近20年間におけるこれら少年の犯した窃盗事犯(触法少年を除く。)の内容を手口別に見てみると,IV-4表のとおり,万引きの占める割合が一貫して高く,50年以降は,各手口の中でも常に1位となっており,窃盗事犯全体の39.3%ないし36.3%を占める状態で推移している。

IV-4表 窃盗事犯少年の手口別構成比の推移(昭和41年,45年,50年,55年,61年)

 このように,少年による窃盗事犯の中では万引きが主流をなしているが,これら万引事犯を犯す少年の年齢構成(昭和60年)を見たのがIV-5表である。窃盗事犯に占める万引きの比率が最も高い年齢は,14歳未満の触法少年で,同事犯の半数近くを万引きが占めており,次いで高いのが,14歳から17歳までの年少少年及び中間少年で,18歳以上の年長少年では比較的低く,全般的傾向として,年齢が高くなるにつれ,窃盗事犯に占める万引きの比率が低下していく状況にある。もっとも,女子少年には,この傾向が見られず,全般的に万引きの占める比率が高いばかりか,特に,16歳以上の女子については,窃盗事犯の半数以上が万引きで占められていることが目立つ。なお,昭和60年において万引事犯を犯した少年の学職別検挙人員及び構成比を見たのがIV-6表であるが,これによると,万引きを犯す少年の52.4%が中学生,29.5%が高校生で,これらの中高生が少年による万引事犯の80%以上を占めており,有職少年及び無職少年の比率は,それぞれ3.1%,4.1%といずれも低い。

IV-5表 窃盗事犯少年の年齢別検挙状況(昭和60年)

IV-6表 窃盗事犯少年の学職及び構成比(昭和60年)

IV-7表 窃盗少年の家庭裁判所における終局決定別構成比の推移(昭和40年,50年,60年)

 これら窃盗事犯を犯して検挙された少年に対し家庭裁判所ではどのような処分をしているであろうか。IV-7表は,昭和40年から60年までの間に,全国の家庭裁判所でなされた窃盗事犯少年に対する処理状況を,10年ごとに,終局決定別にその構成比を見たものである。これによれば,万引きを含め窃盗事犯のほとんどは,不処分又は審判不開始で終結しており,最近においては,その両者で合計91%以上に達している。他方,こと20年間に,少年院送致及び保護観察処分に処せられた者の比率は半減しているばかりか,刑事処分が必要であるとして検察官に送致される少年の比率も激減している状況にある。