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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/2 

2 犯罪常習者の処遇についての国民の考え方

 「総理府世論調査」においては,「万引き,無銭飲食の常習者などのように,何回刑罰を受けても犯罪を繰り返す者がいますが,このような者に対してどのようにしたらよいと思いますか。」との質問に対し,(ア)「段々に刑を重くし,刑務所に入っている期間を長くする」(以下「収容期間を長く」と要約する。),(イ)「刑務所を出た後も指導監督する」(以下「出所後も指導」と要約する。),(ウ)「本人の自覚を待つ」(以下「本人の自覚」と要約する。),(エ)「経済的援助を与えて罪を犯さないようにする」(以下「経済的援助」と要約する。)の選択肢を設けて回答を求めている。また,法務総合研究所では,これと同じ質問と回答選択肢をもって,「受刑者調査」及び「受刑者の家族調査」を行った。これらの結果を男女別にまとめたのがIV-2表である。これらの質問及び回答選択肢に関し,まず,留意したいことは,質問にいう「常習者」としては,犯罪常習者の中から,職業的犯罪者,反社会的組織加入者,確信犯,身体犯及び少年を除いた上,万引き,無銭飲食というような比較的軽微で身近な財産犯罪を反復する者を想定しているということ,上記の回答選択肢については,択一的回答を求めてはいるが,これらは,本来必ずしも互いに排除し合うものではなく,それぞれ同時に,あるいは段階的に,併用できる措置であり,したがって,集計結果も柔軟に総合的に解釈することが必要となるというようなことであろう。
 ところで,上記三つの調査の結果において,共通して最も多い意見は,「出所後も指導」とする社会内処遇を期待するもの,次いで多いのは,「収容期間を長く」であり,この両者を合わせると,一般国民では全回答の75.0%,受刑者では同じく62.3%,受刑者の家族では同じく62.6%を占めるに至っている。なおIV-3表は,一般国民の回答結果を年齢層別に見たものである。

IV-2表 累犯者の扱いについての国民の考え方(万引き,無銭飲食などの常習者に対してどのようにしたらよいか。)

 そこで,以下,回答選択肢ごとに選択の多いものから順に見ていくこととする。まず,「出所後も指導」については,一般国民の38.0%,受刑者の家族の39.2%がこれを選択している。つまり,かなり多くの国民は,累犯者に対しては,服役後も社会内で引き続き処遇する必要性を肯定し,男女別では,一般国民の女子の39.5%が,受刑者の家族の男子の42.7%が,また,年齢層別では,一般国民の20歳代の44.2%と30歳代の44.0%がこの意見を支持している。なお,作表してはいないが,受刑者の家族では,20歳代の116人中53人(45.7%)と60歳以上の131人中54人(41.2%)がこれを選択している。一方,受刑者では,男女ともこの選択肢を選択した者の比率はやや低くなってはいるものの,全体で33.2%が選択しており,作表してはいないが,特に,犯罪性の進んでいないA級(IA,JA,LA,YA,MA及びPAを含む。)では,913人中389人(42.6%)がこれを選択しているのに対して,犯罪性の進んでいるB級(IB,JB,LB,YB,MB及びPBを含む。)では,1,732人中これを選択した者は489人(28.2%)にとどまっている。

IV-3表 累犯者の扱いについての一般国民の考え方(年齢層別)(万引き,無銭飲食などの常習者に対してどのようにしたらよいか。)

 次に,「収容期間を長く」とする選択肢は,一般国民の37.0%がこれを選択しており,特に,男子では,「出所後も指導」(36.2%)を上回り,40.1%に達しているのが注目される。また,受刑者の家族でも,およそ4人に1人がこの意見を選択しているほか,受刑者であっても,男子の29.3%がこれを選択していることは興味深い。なお,作表してはいないが,これを比較的多く選択した受刑者の家族の年齢層は,50歳代の166人中46人(27.7%),60歳代の87人中23人(26.4%),さらに,実人員は少ないが,10歳代の7人中4人(57.1%)であり,地域別に見ると,東京都に住む受刑者の家族は60人中24人(40.0%)が,また,大阪府では57人中19人(33.3%)が際立って多くこれを選択している。このことは,受刑者の家族の中でも,これらの年齢層に属する者や大都市に住む者が,受刑者の引受けに関し,種々の問題を抱えていることを示しているとも言えようか。
 犯罪常習者の「自覚を待つ」とする意見は,一般国民の12.3%が選択し,受刑者及び受刑者の家族では,ともに,男子が14%台,女子が19%台の比率で選択している。特に,作表してはいないが,受刑者の引受人となる家族のうち,受刑者との続き柄で見ると,内妻の80人中20人(25.0%)及び妻の265人中51人(19.2%)が,また,年齢層では,20歳代から40歳代の418人中84人(20.1%)が,この選択肢を多く選択しているのが目立つ。なお,受刑者では,刑期7年を超える者でこれを選択した者が51人中10人(19.6%)と比較的多い。
 他方,犯罪常習者に対して「経済的援助」を与えて罪を犯さないようにすべきだとの意見を選択した者は,一般国民で3.2%,受刑者の家族では5.6%にすぎず,このことは,現在の我が国において,少なくとも一般国民や受刑者の引受人は,犯罪常習者の更生と社会復帰のためには,経済的援助が必ずしも主たる対策とはなり得ない旨の意向を示したものと解されるのに対し,受刑者は,男子の19.4%,女子の16.2%がこれを選択し,対照的結果を示している。なお,「その他」の回答をした者は,一般国民で0.5%,受刑者で0.8%,受刑者の家族で1.4%にとどまっている。
 以上のように,犯罪常習者をいかに処遇すべきかについて,国民の多くは,「収容期間を長く」して「出所後も指導」するのを相当と考えているようにうかがわれるのであるが,このことは,一般国民の犯罪常習者観と無関係ではないように思われる。すなわち,資料は若干古いが,内閣総理大臣官房広報室が昭和54年に実施した「更生保護事業に関する世論調査」においては,「一度犯罪を犯した人の中には,その後も犯罪を繰り返す人が多いと思いますか,それとも少ないと思いますか。」との質問を設定して一般国民の意見を問うており,その調査結果では,「繰り返す人が少ない」と答えた者は回答者の13.0%にとどまっているのに対し,「繰り返す人が多い」と答えた者は47.5%にも達している。これを前提とすれば,今回の調査において,一般国民の考え方が,社会防衛のためには「収容期間を長く」し,その間,適切な施設内処遇を行うことにより,当該受刑者の改善更生を期するとともに,「出所後も指導」することにより,その再犯を防止すべきであるとする方向に集約されたのも言わば当然かもしれない。しかしながら,収容期間を長くすることは,その反面において,拘禁の長期化に伴う受刑者の社会適応能力の低下をもたらすなどの問題が生ずることも見逃すことはできない。「出所後も指導」を選択した者が多かったのは,このようなことをも念頭に置いて,社会内処遇の一層の充実を期待する意味が込められていると考えることもできよう。それにしても,犯罪常習者の真の改善更生は,本人の主体性を抜きにしては考えられない。一般国民に犯罪常習者の「自覚を待つ」とする意見が相当数見られるのは,犯罪常習者の更生には様々なあい路があることを認識しつつも,なお,本人の更生への意欲に期待してのものと見ることもできよう。