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 昭和62年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/1 

1 犯罪常習者の実態

 最近5年間の新受刑者について,入所度数10度以上の者の数を矯正統計年報によって見ると,年間約1,330人から1,470人で推移し,この数は,新受刑者総数の4.2%から4.7%程度に当たり,これら入所度数10度以上の者の犯した主要罪名は,昭和61年の新受刑者では,窃盗が49.5%,詐欺が19.8%となっており,この両罪名だけで総数のおよそ7割を占めている。
 他方,法務省の電算化犯歴により,多数前科者を見ると,昭和61年12月末現在,20犯以上の前科を有する者は全国で1,917人存在しているが,このうち懲役刑,禁錮刑など自由刑による前科20犯以上の者は184人となっている。
 この自由刑のみの多数前科者184人について,その犯歴回数と年齢との関係を示したものがIV-1表であり,年齢層別の人員分布を見ると,55歳から59歳の者(33.2%)が最も多く,全体の約3分の1を占め,この層を中心として,ほぼ正規分布している。最年少者は44歳で,最年長者は75歳である。自由刑24犯以上には40歳代が少ない(1人・ 1.7%)のは当然のこととして,逆に,犯数が多い群に必ずしも高齢者が多いとも限らないことが注目される。

IV-1表 多数前科者の年齢と犯数

 次に,これらの者の犯した罪名を類型化し,初期の犯罪類型が後期にどのように変化又は移行するかを見たものがIV-1図である。なお,ここでは連続した5回の自由刑判決における適用罪名を基に,便宜,犯罪類型をIV-1図の注記のとおり6種類に分類したが,まず,初期の犯罪類型を構成比の高いものから見ていくと,最も多いのは,主として窃盗を反復する「窃盗型」の59人(32.1%)と,主として詐欺を反復する「常習詐欺型」の58人(31.5%)であり,ともに全体の約3分の1を占め,「窃盗・詐欺型」の32人(17.4%)がこれに次ぐ。また,主として暴力犯罪を反復する「暴力型」も17人(9.2%)存在し,更に注目されることは,初期において,既に常習累犯窃盗罪が適用されている「常習累犯窃盗型」も10人(5.4%)含まれていることである。これらの者が犯を重ね,年齢を重ねていく過程で,ある種の者は初期の類型のまま固定し,またある種の者は別の類型に変化する。後期で最も多いのは「常習詐欺型」の86人(46.7%)で総数の半数近くを占め,次いで,「常習累犯窃盗型」(44人・23.9%),「窃盗・詐欺型」(24人・13.0%),「暴力型」(15人・8.2%),「特殊型」(12人・6.5%)の順となっている。なお,初期で最も多かった「窃盗型」は,後期には,わずかに3人(1.6%)となっている。視点を変えて,類型別に,変化又は移行の傾向を見ると,作表してはいないが,「窃盗型」の半数近く(42.4%)は「常習累犯窃盗型」となり,およそ3分の1(32.2%)が「常習詐欺型」となる。「窃盗・詐欺型」は,そのおよそ6割(59.4%)が「常習詐欺型」となり,初期と同じく「窃盗・詐欺型」である者は2割強(21.9%)にとどまる。また,初期に「暴力型」であった者でも,その半数以上(52.9%)が「常習詐欺型」となることも注目される。「常習累犯窃盗型」は,ほとんどがそのまま固定しており,「特殊型」も,その過半数は他の類型に移行しない。

IV-1図 多数前科者における初期と後期の犯罪類型

 このように,何回刑罰を受けても犯罪を繰り返して服役するような犯罪常習者,特に,多数前科者又は頻回受刑者の犯す犯罪は,罪名では圧倒的に,窃盗と詐欺が多いが,その内容を見ると,入所を重ねるにつれ,当該犯罪者も高齢となることもあってか,次第に,かっぱらい,万引き,無銭飲食,無賃乗車等それ自体では必ずしも社会的危険性が高いとは言えないような事犯に集中する傾向があることを指摘することができる。