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 昭和61年版 犯罪白書 第4編/第4章/第3節 

第3節 要因の罪名間比較

 本節では,本章で取り上げた八つの罪種間における犯罪者の意識の有り様を,犯行時に成人であった者について見ることとする。
 まず,犯罪者が,当該事件の責任を,自己又は被害者(覚せい剤事犯については,自分以外のもの)のいずれにあると見ているかという点について分析した結果は,IV-56表のとおりである。責任のすべてを自分に負わせている者は,強盗及び覚せい剤事犯については80%以上に上るのに対し,傷害及び恐喝の場合はわずか10%台にとどまるという顕著な差異を示している。また,被害者に半分以上の責任があるとする者は,傷害で47.6%,殺人で40.9%,恐喝で36.0%となっており,この種の犯罪がしばしば被害者との密接な関係の下に犯されていることを窺わせる。一方,窃盗及び詐欺では,責任の全部又は大部分が自分にあるとする者の合計は,いずれも90%以上となっており,この両罪については,加害者と被害者の関係が比較的薄いことを窺わせる。これを被害防止との関連でいうならば,強盗,窃盗,詐欺については,被害者側の対応によって被害を防止するにはかなりの困難が予測されるが,殺人,傷害,恐喝などは,被害者側の対応いかんによっては,回避可能の余地もあることを示すものといえよう。

IV-56表 責任の所在についての犯罪者意識

 ところで,我が国は世界で最も安全な国といわれ,その理由の一つに優秀な警察の存在があげられるのが常である。それでは,犯罪者の意識の中に,警察官の存在はどの程度反映しているのであろうか。この点に関して,犯罪を犯す際に近所に警察官がいることを知っていたなら,それが犯罪者にどの程度の影響を与えるかについて見たのがIV-57表である。「やらなかった」と答えたのは,窃盗が67.0%,強盗が65.9%,覚せい剤事犯が56.5%と高い数字を示しているのに対し,殺人では21.6%,傷害では30.4%にとどまっている。計画的に敢行されることの多い窃盗や強盗,そして薬物犯罪である覚せい剤事犯については,警察官の存在それ自体が犯罪抑止の効果をもつのに対し,激情によって敢行されることの多い殺人や傷害については,警察官が近所に存在するか否かは犯罪者の意識に必ずしも大きな影響は与えていないものと見られる。

IV-57表 警察官が近所にいる場合の被害抑止力

 もっとも,警察官が近所に存在することが,直ちに警察によって事件が認知されることを意味するわけではないので,次に,被害者から訴えられるなどして,事件が認知されることが分かっている場合の犯罪者の対応がどうであるかについて見たのが,IV-58表である。「やらなかった」と答えたのは,覚せい剤事犯が47.6%,恐喝が45.9%,性犯罪が39.8%と高い数字を示しているのに対し,殺人ではわずか9.9%,傷害でも22.8%と,低い数字にとどまっていることが注目される。一方,警察に事件が認知されてもあえて「やった」と答えた者は,詐欺が23.0%,殺人が22.8%,窃盗が22.4%の順となっているが,恐喝は5.2%,性犯罪は9.7%と極めて低いことが注目される。これは,恐喝や性犯罪の場合には,被害者が直ちに届け出る態度を示すなど,き然とした態度をとるならば,被害の相当程度が回避し得ることを示すものともいえよう。

IV-58表 事件認知が確実と予想される場合の被害抑止力

IV-59表 被害者等からの届出の有無についての加害者の予測

 それでは,犯罪を行うに当たって犯罪者は,被害者からの届出の有無をどのように予測しているのであろうか。この点を見たのがIV-59表である。強盗の72.1%,窃盗の66.2%が届出を予測しているのに対し,恐喝ではわずか16.9%,傷害は30.4%,性犯罪は31.0%しか届出を予測していない。そして,逆に,恐喝の57.6%,傷害の33.7%,性犯罪の32.7%が,届出はないと考えていたとしており,これらの犯罪の特殊性を窺わせる。次に,「届けないと思った」という比率の高い恐喝,傷害,性犯罪の3罪について,なぜ届出はないと考えていたのかを見たのが,IV-60表である。恐喝及び傷害では,半数以上が「被害者の落ち度」を理由としており,次に多いのが,恐喝では「仕返しを恐れるから」との理由で,傷害では「被害者と知り合い関係にあるから」との理由である。一方,性犯罪では,「被害者の落ち度」を理由にするものが最も多く,次いで「被害が少ない」との理由が挙げられている。

IV-60表 届け出ないと予測した理由

IV-61表 被害者の抵抗の有無・程度と被害抑止効果

 ところで,犯行に際しての被害者からの抵抗の有無は,犯罪者にどのような影響を与えるであろうか。この点を生命・身体犯を中心に見たのがIV-61表である。性犯罪では,被害者の抵抗があれば「すぐやめる」とする者が45.1%,「考えなおす」及び抵抗が「強ければやめる」とする者が計26.6%(以上合計71.7%)もおり,逆に抵抗があっても「最後までやる」とする者は,わずか2.7%にとどまっていることが注目される。また,抵抗があれば「考えなおす」とする者は,恐喝に最も多く,抵抗があっても「最後までやる」とする者は,傷害に最も多い。
 最後に,犯罪者が,被害者及びその遺族の被害感情を,受刑中の現在,どのように推測しているかについて見たのが,IV-62表である。被害者やその遺族は,加害者である自分について,「施設から出てこないことを願っている」及び「出所後も憎みつづける」と考えている者,すなわち,被害者はまだ自分を許してくれていないとする者は,殺人と性犯罪に比較的多く認められ,これらの犯罪者は,被害署やその遺族の被害感情をかなり深刻に受けとめていることを窺わせる。しかし,被害者やその遺族は,加害者である自分を,「既に許す気になっている」及び「処分で納得した」とする者,すなわち,被害者は多かれ少なかれ既に宥恕しているど考えている者の比率が,いずれの罪種についても一般に高く,特に,強盗においては,「処分で納得した」とする者が40.3%にも及んでいることが注目される。

IV-62表 被害感情についての推測内容