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 昭和61年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/8 

8 覚せい剤事犯

 本項では,人はなぜ覚せい剤事犯を犯すのか,その原因は何かについて,犯罪者の意識を通じて分析した上,この種事犯がしばしば犯罪者のみならず,その周辺の人々をも悲惨な境遇に陥れている事実にかんがみ,このような事実が,犯罪者の意識の中にどのように反映しているかを見ることとする。そして,再犯率が高く,再犯速度も早いといわれている覚せい剤事犯者の処遇と,今後の事犯取締りの在り方について示唆を得るべく,覚せい剤事犯で現に矯正施設に収容されている受刑者,及び少年院在院者が覚せい剤からの離脱についてどのように考えているかについても分析した。
 調査対象者は,男子659人,女子148人の計807人で,犯行時年齢別で見ると,成人が658人(男子591人,女子67人),少年が149人(男子68人,女子81人)である。
 成人についてその年齢構成を見ると,男子では20歳代が28.4%,30歳代が40.3%,40歳代が22.7%,50歳以上が8.6%であるが,女子では20歳代が11.9%,30歳代が28.4%,40歳代が47.8%,50歳以上が11.9%となっており,高年齢者の比率は女子の方が高い。
 犯行時の職業を見ると,無職が多く,男子が45.4%,女子(主婦を含む)が69.6%を占める。なお,主婦は成人女子全体の1割強である。有職者のうちでは,男子は技能工,生産工や運輸通信関係の職に就いている者が多く,女子ではサービス業に従事している者が多い。
 不良集団加入歴を見ると,暴力団構成員が成人男子では47.0%を占め,少年男子でも23.5%に達する。女子の暴力団構成員は,少年に1人いるのみであるが,暴力団構成員と交際している者が成人で50.7%,少年で65.4%もおり,女子覚せい剤事犯者の暴力団構成員との関係の深さを示している。
 刑務所の入所度数を見ると,男子では初人者(34.5%)よりも,再入者(65.5%)が圧倒的に多いが,女子では,初人者が34人(50.7%),再入者が33人(49.3%)で,ほぼ同数である。
 IV-50表は,なぜ覚せい剤に関係するようになったかを成人,少年別に見たものである。成人男子については,暴力団構成員278人(47.0%)と非暴力団313人(53.0%)に分けて考察してみた。暴力団構成員では,他に比べて「まとまった金欲しさ」を理由にしている者が10.4%も見られ,非暴力団男子では,「仕事がうまくいかない」が19.2%,成人女子では,「家の中が面白くない」が32.8%となっているなどの特徴的な傾向が認められる。また,少年について見ると,男子では「遊び半分」が27.9%,「もっと遊びたい」が22.1%と高い比率を示しており,女子では,「不安からのがれたい」が28.4%,「人生に希望なし」が21.0%,「人間関係で悩む」及び「仲間と行動を共にしたい」がそれぞれ19.8%などとなっている。

IV-50表 動機及び原因(覚せい剤事犯)

 一方,覚せい剤に手を出したきっかけについて質問した結果によると,「人から勧められて」と答えた者が,男子では成人が69.9%,少年が72.1%,女子では成人56.7%,少年63.0%となっている。また,「無理やり強制された」としている者が女子に多く,成人で11.9%,少年で9.9%となっており(男子の場合成人,少年共に2.9%),女子の場合の特色として注目される。また,覚せい剤を勧めた相手がだれかについて質問した結果,暴力団関係者に勧められたとする者が,少年女子では84.7%,少年男子では59.2%,成人男子で51.7%,成人女子で41.9%となっている。この回答内容は,暴力団と覚せい剤の結び付きの強さを示しているが,反面,これ以外の者は,暴力団に関係のない一般市民からの影響で覚せい剤に関係するようになったこととなり,覚せい剤が暴力団関係者だけではなく,更にその他の広い層の人々の間にも,かなりまん延していることを窺わせる。
 覚せい剤の使用期間を,成人について見ると,3年以上とする者が暴力団構成員で29.5%,非暴力団男子で27.8%,成人女子で43.3%となっているが,少年では,成人より期間が短く,3月以内とする者が男子で20.6%,女子では32.1%を占める。また,最近1年間に覚せい剤のために使用した金額を質問した結果を見ると,成人の非暴力団男子では,10万円以内にとどまるとする者が41.5%であるが,暴力団構成員では300万円を超える金を費やしたとする者が11.9%もいる。一方,少年では成人に比べ金額の少ない者が多く,5万円以内とする者が男子26.5%,女子40.7%となっている。
 覚せい剤購入の資金源を見ると,労働収入によるとしている者が,全体で50.4%を占めるが,少年の男子では「借金」35.3%,「ギャンブル」30.9%などのほか,「薬物を売って」29.4%,「人に売春させて」8.8%,「その他の犯罪で」17.6%などの違法行為によって資金を得た,とする者が少なくない。また,少年女子では,特に「売春して」が11.1%,「人に売春させて」が6.2%となっている点も注目される。
 次に,IV-51表は,覚せい剤事犯者が,事犯の責任がだれにあると考えているかを見たものである。
 覚せい剤事犯者は,責任の所在について,「すべて自分が悪い」としている者が,非暴力団男子で91.7%,暴力団構成員で88.5%,成人女子で86.6%,少年男子で80.9%,少年女子で76.5%となっている。しかし,「大部分は自分にあるが,ほかのものにも少しある」としている者が,少年では男子が11.8%,女子では19.8%と,成人よりもかなり高い比率を示している。
 次に,覚せい剤に関係したことによって,自分がどのような被害や影響な受けているかについて見た結果が,IV-52表である。「身体がおかしい」,「精神状態がおかしい」と心身の不調を訴える者が,成人,少年共に多くなっており,なかでも少年においてその比率が高くなっている。また,成人の非暴力団男子では,「良い友人を失った」が65.2%,「職場・仕事がうまくいかない」が34.2%,「お金に困った」が40.6%などとなっており,成人女子では,「離婚した」が22.4%を占めるなど,覚せい剤によって職場環境や対人関係の悪化,さらには家庭の崩壊を招くまでに至っていることを示している。少年男子では,「お金に困った」が42.6%,「他の犯罪に手を出した」が25.0%,少年女子では,「売春に関係した」が13.6%となっている。

IV-51表 責任の所在についての加害者の意識(覚せい剤事犯)

IV-52表 覚せい剤による影響(被害)

 IV-53表は,覚せい剤により自分以外のだれに迷惑や被害を与えたかについて問うた結果である。「自分の家族や親戚に対して」 と答えた者は,成人では暴力団構成員が83.1%,非暴力団男子が90.7%,女子が86.6%となっており,少年では男子が98.5%,女子が97.5%となっている。このほか,少年では「共犯者,仲間に迷惑や被害を与えた」とする者が約半数を占めているのが特徴的である。また,成人,少年共に警察,検察庁,裁判所,矯正施設の職員,保護司など司法機関の人に対して,迷惑などをかけたとするものについて見ると,少年女子の74.1%を最高に,暴力団構成員の46.8%に至るまで多くの者が肯定している。

IV-53表 覚せい剤による迷惑(被害)

 覚せい剤事犯で現に矯正施設に収容されている者の,覚せい剤からの離脱意思を見ると,IV-54表のとおりである。「絶対やめたいし,やめる見通しがある」としている者が,成人女子で83.6%,非暴力団男子で80.2%,暴力団構成員で72.7%,少年女子で61.7%,少年男子で58.8%となっており,成人が少年より高い比率を示している。少年では2割以上の者が「やめたいが,やめられるか不安」だとしており,この種事犯の少年を処遇する上で考えさせられるものがある。

IV-54表 覚せい剤をやめる意思

 IV-55表は,覚せい剤事犯の取締りの在り方についての意識を見たものである。成人については,初入者と再入者に分けて見たが,「現在より厳しく処罰」をとしている者がかなりの高率で存在し,それが男子,女子共に初人者に多く,特に女子初人者の場合はそれが50%にも達しているのに対し,再入者では,「処罰より治療」を望んでいる者が多く見られる。少年では,「現在より厳しく処罰」が,女子では38.3%,男子で27.9%となっており,「現在くらいが適当」であるとするのは,男子,女子共に30.9%となっている。

A-55表 覚せい剤事犯の取締りの在り方についての犯罪者意識