強姦と強制猥褻との間には,性的衝動から個人の身体に危害を加える犯罪として共通するものが多いが,同時に質的な差異も存在する。そこで,本項においては,強姦と強制猥褻のそれぞれについて,犯罪者の意識を通じて,被害要因等の分析を試みることとした。
本調査の対象者は194人で,そのうち強姦は161人,強制猥褻は33人である。年齢層別構成では,犯行時に20歳未満の少年が41.8%(81人)で,以下,20〜24歳19.6%(38人),25〜29歳9.8%(19人),30〜39歳17.5%(34人),40〜49歳6.7%(13人),50〜59歳4.1%(8人),60歳以上0.5%(1人)となっている。これを強姦及び強制猥褻の別で見ると,強姦では47.8%(77人)が10歳代の少年で,これに20歳代を加えると78.3%が30歳未満の者によって占められている。一方,強制猥褻では10歳代が12.1%,20歳代が24.2%,30歳代が30,3%,40歳代が9.1%,50歳代が21.2%と,強姦のそれに比べ各年齢層に広く拡散する傾向が見られる。
このような犯罪者から被害を受けた者が,どのような者であるかを被害者の年齢層別で見ると,次のとおりである。
まず,強姦被害者は20歳未満が51.6%(83人)と半数以上を占め,以下,20〜24歳17.4%(28人),25〜29歳9.3%(15人),30〜39歳9.9%(16人),40〜49歳2.5%(4人),50〜59歳1.2%(2人),不明8.1%(13人)となっている。もっとも,成人の犯行による被害者では,20歳未満が34。5%(29人)で,以下,20歳代39.3%(33人),30歳代13.1%(11人),40歳代4.8%(4人),50歳代2.4%(2人)となっているのに対し,少年の犯行による被害者では,70.1%(54人)が20歳未満に集中している。一方,強制猥褻の被害者年齢は,69.7%(23人)が20歳未満の女子で,そのうち13歳以下の少女が過半数の54.5%(18人)を占めており,成人による犯行,少年による犯行を問わず,その被害者は少女や幼児に多く集中している。
それでは,このような犯罪者は,なぜ,当該相手方を被害者として選定することにしたのであろうか。この点について,六つの概念から代表的と思われる項目を,それぞれ三つずつ選んで質問した結果は,IV-46表のとおりである。いずれも肯定回答の回答者総数に対する比率を見たものである。これらの質問の中で,最も肯定の回答の多かったのは,強姦,強制猥褻のいずれについても,第6群中の「相手はたまたまそこにいた」となっている。この点は,別に加害者に犯行の計画性の有無を質問した結果,計画的に行ったとする者は極めて少なく,偶然の要因から行ったとする者が,性犯罪全体で,成人の84.1%,少年の76.5%を占めていることとも符合しており,性犯罪の被害者にとっては,「運の悪さ」とでもいうべき機会にたまたま遭遇したことが,大きな被害要因として挙げられる。また,強姦で2番目に多い肯定回答は,第5群中の「相手は被害を警察や他人にいわないと思った」であり,強制猥褻でもこの回答は,かなり高い肯定率を示している。このことからすれば,被害者から訴えられることはあるまいといった加害者側の安易な推測なども,性犯罪を誘発させやすい主要な一因といえよう。一方,被害者測の魅力が犯罪を引き起こすことは意外に少なく,強姦,強制猥褻のいずれの場合においても,被害者の魅力という概念から作られた第1群の質問に対する肯定回答は,それほど高率なものではない。
IV-46表 被害者を選定した理由(性犯罪)
さらに,強制猥褻には,成人の加害者が被害者を選定した理由の一つとして挙げている,第6群中の「相手はたまたまそこにいた」という回答と並んで,最も高率を示しているのが,第4群中の被害者は「相手にしやすい人だった」という回答である。このことは,加害者が被害者を選定するに当たって,被害者にたまたま遭遇したという「偶然性」とともに,加害者の「弱さ,もろさ」といった要因が,極めて重視されていることを意味しており,強制猥褻の被害者が,非力で無抵抗な少女や幼児に集中していることとも密接な関連があるといえよう。
IV-47表 被害者から届出の有無についての加害者の予測(性犯罪)
次に,性犯罪における被害の重要な原因の一つである被害者側の届出意思について,加害者は犯行の直後にどのように考えていたのかを見たのが,IV-47表である。これによると,「届けないと思った」とする者は,強姦で成人が38.1%,少年が39.0%であり,強制猥褻では成人が17.2%と,いずれも被害者選定理由第5群の「警察に届けないと思った」に対する肯定回答率より低くなっている。しかし,更に子細に検討すると,届けるか届けないか「半々と思った」とする者が,強姦の成人で26.2%,少年で33.8%,強制猥褻の成人で37.9%もおり,この種事犯では,犯行後もなお被害者が届け出ないことを期待している犯罪者が多いことを物語っている。そして,このような「届けないと思った」及び「半々と思った」と予測した者に対し,その理由を質問した結果を見ると,強姦については,成人では「被害はあまりなかったから」と「被害者にも落ち度や責任があるから」が多く,少年では「被害者にも落ち度や責任があるから」と「犯人と被害者が知り合いだから」が,上位を占める理由となっている。また,強制猥褻では成人,少年共に,「届けても被害が元へもどらないから」が,主な理由となっており,いずれもこの種事犯における犯罪者の意識の特殊性を窺わせる。なお,この質問結果の中で「届けると思った」及び「半々と思った」とする者の率は,強姦より強制猥褻の方が相当に高く,成人では強姦の54.8%に対し,強制猥褻が75.8%となっていることも注目される。これは強制猥褻の被害者の多くが少女あるいは幼児であるため,届出の有無は被害者本人よりもむしろ保護者の意思に大きく左右され,保護者の被害感情は,通常被害者本人よりも厳しいであろうとの判断が強く働いているからであろう。
このような性犯罪における加害者が,事犯の責任を自分と被害者のいずれに,どの程度あると考えているかについて見たのがIV-48表である。「すべて自分が悪い」とする者は,強姦で54.0%,強制猥褻で75.8%となっている。強姦に比べて強制猥褻の比率が高くなっているが,これは,強制猥褻では被害者の対応いかんに関係なく,加害者の一方的な行為によることに由来するからであろう。また,「被害者も少し悪いが大部分は自分が悪い」とする者は,強姦で38.5%,強制猥褻で18.2%となっている。これは,前述の被害者を選定した理由についての質問結果の中で,第2群及び第3群の被害者側の誘発あるいは助長的要因の存在に肯定回答を寄せた者が,少なくないこととも関連するものであろう。
IV-48表 責任の所在についての加害者の意識(性犯罪)
IV-49表 被害感情の推測内容(性犯罪)
このような犯罪者が,被害感情について現在どのように推測しているのかを見ると,IV-49表のとおりである。被害者は自分を許してくれず,「出所後も憎み続ける」と回答した者が強姦で47.8%,強制猥褻で36.4%と最も多く,少年にその傾向がより強く認められる。しかし,「処分で納得した」とする者が強姦,強制猥褻共に24.2%と対象者の四分の一近くを占め,「既に許す気になっている」とする者も,それぞれ11.2%,12.1%となっている。