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 昭和61年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/4 

4 恐  喝

 恐喝の調査対象者は,犯時成人172人,犯時少年97人の合計269人である。男女別では,男子256人(95.2%),女子13人(4.8%)であり,暴力団構成員は成人123人,少年21人の合計144人(53.5%)で,いずれも男子である。対象者のうち成人の60.5%(104人)が刑務所入所経験を有し,少年の69.1%(67人)が保護観察又は少年院送致の処分歴がある。
 被害者は圧倒的に男子が多く,成人加害者の場合は90.7%,少年加害者の場合は80.4%が男子となっている。ただし,女子加害者13人について見ると,そのうち10人は被害者も女子となっている。被害者の職業別では,加害者が成人の場合は,68.0%が有職,10.5%が無職,1.2%が学生・生徒となっているが,加害者が少年の場合は,学生・生徒が50.5%と過半数を占めており,次いで有職26.8%,不明14.4%となっている。
 対象者の恐喝の犯行態様をみると,少年の場合は,非暴力団の776.6%,暴力団構成員の61.9%が共犯者のある犯行である。成人の場合は,非暴力団で51.0%は単独で行っているのに対して,暴力団構成員で69.9%は共犯者のある犯行である。暴力団構成員は,犯行態様においても,その意識においても,非暴力団とは異なるものがあるので,以下この両者を可能な限り対比して考察することとする。
 まず,犯行時における飲酒の有無について質問した結果を見ると,加害者側が飲酒していたとする者は21.9%であるのに対し,被害者側が飲酒していたとする者は10.8%にすぎない。飲酒の上での偶発的な被害要因は,傷害におけるほど顕著には認められず,恐喝において犯行や被害を決定するのは,飲酒のような偶発的要因というよりも,加害者が金品を得るために,比較的冷静な判断によって被害者を選別している傾向の強いことを窺わせる。そこで,加害者と被害者との面識関係の有無・程度について質問した結果を見ると,「面識なし」が成人で59.3%(暴力団構成員55.3%,非暴カ団69.4%),少年で56.7%(暴力団構成員42.9%,非暴力団60.5%)といずれも過半数を占めている。しかし,その反面,「顔や名前は知っていた」とする者が,成人で12.8%(暴力団構成員15.4%,非暴力団6.1%),少年で19.6%(暴力団構成員19.0%,非暴力団19.7%),「よく知っていた」とする者が,成人で26.7%(暴力団構成員28.5%,非暴力団22.4%),少年で23.7%(暴力団構成員38.1%,非暴力団19.7%)もあることは,面識ある者であっても被害者となる可能性が少なくないことを示している。また,成人の場合の犯行場所は「住宅の中」が31.4%で最も多いのに対して,少年の場合のそれは「駅,駐車場,公園,道路」が34.0%で最も多くなっており,このことは,次に触れる被害者選定理由にも関連があるといえよう。

IV-33表 被害者を選定した理由(恐喝)

 IV-33表は,対象者に,なぜその相手を被害者に選んだかの理由を問うた設問に,肯定回答を寄せた者について見たものである。
 被害者選定理由には,成人と少年では顕著な差異がある。まず,成人を見ると,肯定回答が最も多いのは,第3群中の「相手は不注意だった」の61.0%(暴力団構成員62.6%,非暴力団57.1%)であり,次が第2群中の「相手を許せない理由があった」の57.0%(暴力団構成員57.7%,非暴力団55.1%)であって,いずれも被害者側の落ち度を問題としているものである。これに対して,少年の場合は,第4群中の「相手にしやすい人だった」の62.9%(暴力団構成員47.6%,非暴力団67.1%),第5群中の「相手は警察に届けないと思った」の62.9%(暴力団構成員66.7%,非暴力団61.8%)が最も多く,さらに,第4群中の「相手は自分より弱いと思った」の55.7%(暴力団構成員57.1%,非暴力団55.3%),「相手は抵抗しないと思った」の54.6%(暴力団構成員52.4%,非暴力団55.3%)も高率である。成人で多数の肯定回答を得た「相手は不注意だった」及び「相手を許せない理由があった」は,少年では45.4%及び33.0%と比較的低率にとどまっている。すなわち,少年の場合は,相手の落ち度などはさほど重視されず,相手が弱いとと又は相手にしやすいことなど犯行が成功しやすい状況にあることや,警察に届けられないという安易な考え方が,被害者選定の重要な要素となっているものと推測される。少年加害者の場合,学生・生徒が被害者になることが多いのはそうした結果によるものと思われる。また,少年では,第6群中の「相手はたまたまそこにいた」ことを肯定する者が,過半数の57.7%(暴力団構成員33.3%,非暴力団64.5%)に達している。成人でこれを肯定する者は40.1%(暴力団構成員36.6%,非暴力団49.0%)であり,少年の場合は,その相手でなければならないという必然性に乏しく,犯行を可能とする機会があればだれでも被害者に選ぶという傾向があることを示している。駅,駐車場,公園等だれもが出入りできる公共の場所が犯行場所として最も多いというのも,これを裏付けるものであろう。
 ところで,先に触れたとおり,特に成人加害者の場合は被害者に何らかの落ち度があることを被害者選定理由とした者が多いが,それでは,加害者は被害者の落ち度等を含め,被害者の責任の程度についてどのように認識しているのであろうか。その調査結果がIV-34表である。
 少年の47.4%(暴力団構成員28.6%,非暴力団52.6%)が「すべて自分が悪い」とするのに対して,成人でこれを認めるのは17.4%(暴力団構成員14.6%,非暴力団24.5%)にすぎず,成人においては,80%以上の者が被害者にも責任があると考えていることになる。そして,その責任の程度について,少年においては87.6%(暴力団構成員71.5%,非暴力団92.1%)が加害者である自分の方が悪いとするのに対して,成人において,自分の方が悪いとするのは63.9%(暴力団構成員57.7%,非暴力団79.6%)にとどまり,特に成人の暴力団構成員においては,42.3%の者が被害者の方に加害者と同程度又はそれ以上の責任があると考えているという結果が見られる。

IV-34表 責任の所在についての加害者の意識(恐喝)

IV-35表 被害者に対する気持(恐喝)

 次に,対象者が被害者に対して,現在どういう気持ちでいるのかを調査したのがIV-35表である。
 ここでは,暴力団構成員と非暴力団の意識に大きな差異が見られ,対照的であることが示されている。すなわち,非暴力団では,成人の61.2%,少年の68.4%が「大変申し訳ないと思う」としているのに対して,暴力団構成員では,成人の38.2%,少年の47.6%がこれを認めているにすぎない。その他は,条件付謝罪かあるいは全く謝罪の気持ちを有していないこととなるが,特徴的なのは成人の暴力団構成員の回答であり,その結果は,「相手とは五分五分である」が5.7%,「相手が悪いから申し訳ないとは思わない」が12.2%,「全く悪いとは思わない」が12.2%で,被害者に対する謝罪の気持ちのない者が合計30.1%もいることである。ちなみに,成人の非暴力団及び少年においては,謝罪の気持ちのない者の比率は10%前後にすぎない。

IV-36表 被害感情の推測内容(恐喝)

 最後に,被害者が加害者にどのような気持ちを持っていると考えているのかを,加害者について調査した結果がIV-36表である。
 「既に許す気になっている」と思うとした者は,成人の非暴力団で28.6%,少年の暴力団構成員で4.8%,少年の非暴力団で14.5%であるが,成人の暴力団構成員では40.7%にも上っている。また,「処分で納得した」と思うとした者が,少年では40.2%(暴力団構成員33.3%,非暴力団42.1%),成人では30.8%(暴力団構成員30.9%,非暴力団30.6%)であり,さらに,「賠償をすればよい」とした者が,少年で6.2%(暴力団構成員9.5%,非暴力団5.3%),成人で6.4%(暴力団構成員5.7%,非暴力団8.2%)となっている。特に成人の暴力団構成員において,被害者が「既に許す気になっている」又は「処分で納得した」と考える者が多いことは注目されるところであり,暴力団構成員の意識の特徴を示すものといえよう。