前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和61年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/3 

3 強  盗

 ここで分析の対象となった強盗の加害者は165人で,本章においては,強盗強姦は性犯罪に編入している。
 これら対象者の内訳を見ると,男女別では,男子159人(96.4%),女子6人(3.6%)と,大部分は男子で占められている。また,犯行時の年齢によって区分すると,成人が129人(78.2%,うち女子1人),少年は36人(21.8%,うち女子5人)となっており,女子の強盗犯のほとんどは少年で占められている。
 なお,成人の129人について,刑務所初入者と再入者(入所2度以上の者)の別で見ると,初入者が77人(59.7%,うち女子1人),再入者は52人(40.3%)となっている。

IV-29表 加害者の認識した被害者の状況(強盗)

 ところで,強盗事犯にあっては,加害者と被害者とが事件の時まで面識のない間柄である場合が大半で,本章第1節で述べたとおり,およそ80%を占めている。それでは,加害者は,犯行に及ぶに当たって,相手被害者をどのような人と認識して行動したのであろうか。この点を調査した結果が,IV-29表である。
 これで見ると,成人,少年共に,相手被害者について,体つきが貧弱で,力がなさそうであるとか,能力的に劣っていそうであるなど,相対的に相手が自分より弱者であると認めたとしている者が多く,殊に少年では,それが94.4%にも及んでいる。次いで,相手が子供であるとか,老人であるとかといった,年齢的な面での弱点を認めたとしている者が多く,成人で24.0%,少年では22.2%となっている。さらに,相手も非行や犯罪のある者とか,警察に目をつけられていそうな者であるなどの弱点を認めたとしている者も若干見受けられる。
 また,これを成人について,初入・再入者の別で比較してみると,初人者は,再入者に比べて体力や能力の劣っている者,子供・老人などを相手として選択したと考えられる傾向を示し,他方,再入者は初人者に比べると,女性だけの生活家庭や,非行や犯罪がありそうな者を対象とすることが多いことを窺わせる。
 これらのことから,強盗事犯においては,加害者は相手が自分より何らかの点で弱者であるということを見極めた上で,犯行に及ぶことが多いものと考えられる。
 一方,加害者に対して,そうした被害者の側に,犯行を及ぼすに至った何らかの落ち度があったか否かについて質問した結果を見ると,相手方に落ち度はなく,すべて自分が悪い,とした者が,成人で106人(成人の82.2%),少年では28人(少年の77.8%)に上っている。これを成人の初入・再入の別で見ると,前者が66人(初人者の85.7%),後者が40人(再入者の76.9%)となっており,いずれの区分で見ても大多数を占めている。このことから,強盗事犯では,しばしば,何ら落ち度のない,加害者から見た弱者が,その被害者として選択されやすいという傾向にあることが窺える。
 この点について,更に細かく,被害者を選定するに至った要因を調査した結果が,IV-30表である。
 これで見ると,当該相手を,被害者とした理由として最も多く挙げられているのは,成人では「相手はたまたまそこにいた」の65.9%で,以下,「相手は自分より弱いと思った」の60.5%,「相手にしやすい人だった」の57.4%,「相手は抵抗しないと思った」の51。9%,「相手は沢山のお金を持っていた」の51.2%などとなっている。
 少年で最も多いのは,「相手はたまたまそこにいた」の75.0%で,以下,「相手にしやすい人だった」と「相手は自分より弱いと思った」の,それぞれ72.2%,「相手にスキがあった」の63.9%,「相手は抵抗しないと思った」の58.3%,「相手は沢山のお金を持っていた」の52.8%,「相手は不注意だった」の50.0%などとなっており,成人,少年共に過半数の者が挙げている要因は,おおむね似通った傾向を示していることが認められる。

IV-30表 被害者を選定した理由(強盗)

 ただ,成人のうち暴力団構成員(24人)について見てみると,成人全体の比率に比して特に高いのは,第2群の「相手の方から挑発してきた」,「相手が先に攻撃してきた」,「相手を許せない理由があった」及び第5群の「相手は警察に弱みがある」などであり,暴力団構成員による強盗被害者の選定理由には,むしろ殺人や傷害,あるいは恐喝事犯に近い要因が見られるという特徴がある。
 しかし,いずれにせよ,強盗では,成人,少年を問わず,特に第4群の各項目が一様に高い比率を示しており,先に述べたように,相手が加害者にとって,その犯行を実行しやすい相手であると認識されるか否かが,被害者となるかどうかの重要な分かれ目であることを窺わせている。
 次に,加害者がその被害者となった者に対して,現在どのような感情を抱いているかを見たのが,IV-31表である。
 これによると,成人ではおよそ9割の者が,また,少年では7割強の者が,それぞれ被害者に対して全面的な謝罪感情を抱いていることが分かる。
 これは,これまで見てきたように,被害者の側に責められるべき落ち度がほとんどないといえる強盗事犯の特性とも考えられるが,しかし,少年については,条件付きでの謝罪感情しか表明していない者や謝罪感情を全く表明していない者が成人のそれを大きく上回り,合計で27.8%もいるという点は注目に値しよう。

IV-31表 被害者に対する気持(強盗)

IV-32表 加害者の贖罪意識(強盗)

 また,成人において,初人者と再入者とを比べて見ると,再入者の方が謝罪意識が低い傾向にあり,処遇上看過し得ない問題を含んでいると考えられる。
 IV-32表は,これら強盗事犯加害者の贖罪意識を見たものである。
 各区分とも,大多数の者が被害の賠償を済ませるだけでなく,自らが社会において更生することで償いが終わる,としている。この結果に,どれほどの真意が含まれているかについては種々の見方もあろうが,重大犯罪である強盗罪によって施設に収容された,我が国の犯罪者の特性の一面を示すものともいえよう。
 しかしながら,再入者や成人の暴力団構成員で見られるように,裁判の判決に従うだけで済むとする者がそれぞれ10%台,また,矯正施設に収容されることで償いも終わるとする者が,それぞれ10%ないし20%を占め,合計すると,再入者では26.9%,成人の暴力団構成員では37.5%も存在するということは,これら加害者たちの贖罪意識の程度を物語るものである。