(1) 概 況
昭和60年において保護観察所が新たに受理した少年保護観察対象者は,前掲II-47表のとおり,保護観察処分少年が7万1,411人,少年院仮退院者が5,585人である。前年に比べて,保護観察処分少年が653人(0.9%),少年院仮退院者が16人(0.3%)増加しているが,少年院仮退院者の増加率が前年の12.6%に比べ,著しく低下していることが注目される。
III-50表 保護観察対象者の非行種類別受理人員
昭和58年以降において新たに受理した少年保護観察対象者を,保護観察処分少年については一般事件と交通事件に,また,少年院仮退院者については刑法犯,特別法犯,虞犯に分けた上,非行の種類別に示すと,III-50表のとおりである。60年について,前年に比べて見ると,保護観察処分少年では,増加しているのは,交通短期の1,437人(3.3%)増,虞犯の20人(2.2%)増及び交通短期を除く交通事件の99人(0.9%)増であり,逆に減少しているのは,凶悪犯の52人(24.3%)減,性犯罪の99人(24.1%)減,薬物犯罪の335人(11.8%)減,粗暴犯の100人(3.8%)減及び財産犯の305人(3.7%)減である。また,少年院仮退院者では,増加しているのは,業過の12人(9.4%)増,財産犯の149人(6.2%)増,粗暴犯の26人(3.7%)増及び薬物犯罪の4人(0.5%)増であり,逆に減少しているのは,性犯罪の44人(15.5%)減,虞犯の79人(14.9%)減及び凶悪犯の16人(8.6%)減である。
III-51表は,保護観察処分少年(交通短期保護観察少年を除く。以下,本項においては同じ。)について,その保護処分歴を見たものである。昭和60年では,何らかの処分歴のある者が68.3%であり,その内訳は,審判不開始・不処分が42.8%,保護観察が22.6%,少年院送致が1.7%,教護院・養護施設送致が1.2%である。このうち少年院送致や保護観察は,わずかながら年々上昇していることが注目される。
III-51表 保護観察処分少年の保護処分歴別受理人員
保護観察処分少年について,昭和60年の受理時における年齢を見ると,前掲II-49表のとおり,15歳以下が13.1%,16歳・17歳が42.6%,18歳以上が44.3%となっているが,前年に比べると,15歳以下及び18歳以上の比率が低下し,16歳・17歳が上昇している。
なお,受理時において中学校在学中である少年も,従前から増加傾向にあったところ,昭和60年では1,853人と,前年の2,102人に比べ249人(11.8%)の減少を示している。
(2) 保護観察の実施状況
保護観察対象者の非行,犯罪の態様は,複雑化,多様化しており,保護観察の実効を期するためには,常時,その態様を十分に把握し,これにふさわしい処遇を行う必要がある。そこで,保護観察所では,こうした非行,犯罪の態様のほか,原因や動機との関連,保護観察実施上の問題点などを加味して,暴力団組織関係者(幹部,組員及び準構成員をいう。),暴走族対象者,シンナー等濫用者,覚せい剤事犯対象者,校内暴力対象者,家庭内暴力対象者などの類型に対象者を分けた上,これに応じた処遇を行うよう努めている。
III-52表は,保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,各類型別に人員を示したものである。現に保護観察を受けている対象者のうち,各類型に該当する者の占める比率を見ると,まず,保護観察処分少年については,昭和60年において,シンナー等濫用者が21.6%と最も高く,以下,暴走族対象者5.6%,覚せい剤事犯対象者3.2%,暴力団組織関係者1.8%,校内暴力対象者1.3%,家庭内暴力対象者0.4%の順となっている。これを最近3年間の推移で見ると,暴走族対象者及び覚せい剤事犯対象者が低下しているのに対し,シンナー等濫用者及び暴力団組織関係者が上昇し,また,校内暴力対象者が低下しているのに対し,家庭内暴力対象者は59年にいったん低下したものの,60年は横ばい状態となっている。
次いで,少年院仮退院者について同じ比率を見ると,昭和60年において,シンナー等濫用者が28.8%であり,保護観察処分少年の場合と同様に最も高く,以下,覚せい剤事犯対象者9.1%,暴走族対象者7.0%,暴力団組織関係者5.8%,校内暴力対象者1.3%,家庭内暴力対象者0.7%の順となっている。これを最近3年間の推移で見ると,保護観察処分少年とほぼ同様の傾向を示しているが,異なるのは,比率そのものが各年とも,おおむね少年院仮退院者の方が高くなっている点である。
III-52表 保護観察対象者の類型別人員
これらの類型のうち,保護観察処分少年及び少年院仮退院者を通じて圧倒的に多く,かつ,増加傾向にあるシンナー等濫用者については,交通事犯保護観察処分少年に対する処遇と同じように,保護観察官と保護司の協働による,通常の個別処遇に加えて,集団処遇が積極的に実施されている。
これは,専門家による講義,集団討議,視聴覚教材を活用した指導等を含む多彩な方法であり,しかも,必要に応じて保護者,保護司等関係者の参加を得て行われているものである。昭和60年においては,23庁の保護観察所で73回(参加人員1,509人。うち,対象少年730人)の集団処遇が実施された。
以上のほか,保護観察所によっては,覚せい剤事犯対象者,中学生対象者,女子対象者等に対する集団処遇が実施されている。
なお,前述の類型別には該当しないが,交通事犯保護観察処分少年(昭和60年末現在,交通短期保護観察少年を除く保護観察処分少年3万9,461人中29.2%に当たる1万1,510人)に対する集団処遇は,昭和60年において,27庁の保護観察所で392回(参加人員7,211人。うち,対象少年5,318人)実施されている。
保護観察処分少年及び少年院仮退院者の昭和60年における保護観察終了状況は,前掲II-52表のとおりであるが,III-53表は,これを最近3年間について,保護観察処分少年では一般事件と交通事件に,また,少年院仮退院者では,長期処遇と短期処遇に分けて示したものである。
まず,保護観察処分少年について見ると,解除とは,経過が良好で保護観察を行う必要がなくなったとき,保護観察所長の決定により保護観察を終了させることをいうが,昭和60年において解除になった者の比率は,一般事件では58.6%,交通事件では83.7%であり,交通事件の方が格段に高くなっている。これを58年以降の推移で見ると,一般事件ではわずかに上昇しているが,交通事件では,60年は前年に比べ若干低下している。しかし,55年以降の推移で見ると,同年は一般事件では47.4%,交通事件では79.5%であり,これらに比べると,60年は,それぞれ11.2ポイント,4.2ポイントも上昇している。
また,保護処分取消しとは,その大部分が再犯・再非行などの新たな行為に対し別個の保護処分又は刑事処分を受けたために,従前の保護観察が家庭裁判所の決定によって取り消されることをいうが,昭和60年において保護処分取消しになった者の比率は,一般事件では17.5%,交通事件では5.6%であり,一般事件の方がかなり高くなっている。
次に,少年院仮退院者について見ると,退院とは,経過が良好で保護観察を行う必要がなくなったとき,地方更生保護委員会の決定により保護観察を終了させることをいうが,昭和60年において退院になった者の比率は,長期処遇では11.7%,短期処遇では27.4%であり,短期処遇の方が高くなっている。これを58年以降の推移で見ると,長期処遇,短期処遇共に若干低下しているが,55年以降の推移で見ると,同年は長期処遇では10.2%,短期処遇では31.5%であり,これらに比べると,60年は,長期処遇では1.5ポイント上昇し,短期処遇では4.1ポイント低下している。
III-53表 保護観察の終了状況
III-54表 保護観察の実施期間別終了状況
また,戻し収容とは,再び施設内で処遇をする必要が生じたとき,家庭裁判所の決定により施設に収容することをいうが,昭和60年において,戻し収容と前述の保護処分取消しとを合計した比率は,長期処遇では23.5%,短期処遇では19.4%であり,長期処遇の方が幾分高くなっている。
III-54表は,昭和60年における保護観察の終了状況を,保護観察の実施期間別に示したものである。期間が比較的短い1年以内の者について,まず,保護観察処分少年の解除を見ると,一般事件では7.3%,交通事件では77.1%であり,交通事件の方がはるかに高くなっている。次いで,少年院仮退院者の退院を見ると,長期処遇では32.4%,短期処遇では57.3%であり,短期処遇の方がかなり高くなっている。
(3) 交通短期保護観察
交通事犯で保護観察処分の決定を受けた少年のうち,家庭裁判所により短期の保護観察が相当である旨の処遇勧告が付された者については,原則として保護観察官による集団処遇を中心とした特別の処遇を集中的に実施し,特に支障のない限り,3か月ないし4か月で保護観察を解除するという交通短期保護観察が,昭和52年4月1日から実施されている。
III-55表は,この交通短期保護観察について,最近3年間における受理・終了状況を示したものである。交通短期保護観察少年の受理人員は,年々増加しており,昭和60年では4万4,361人と,前年に比べ1,437人(3.3%)増加している。また,同年中に保護観察を終了した少年は4万3,228人であるが,そのうち4万2,799人(99.0%)が解除によって終了している。
III-55表 交通短期保護観察少年の受理・終了状況
交通短期保護観察少年に対する処遇は,安全運転に関する討議を中心とした集団処遇と,少年からの毎月1回の生活状況に関する報告とを主な内容としている。保護観察開始後3か月ないし4か月を経過して,その間に車両の運転による再犯がなく,集団処遇に出席し,生活状況に関する報告を行い,かつ,少年の更生上特に支障がなければ,保護観察の解除が行われる。なお,車両の運転による再犯があった場合でも,再犯後相応の指導がなされれば解除できる。また,6か月を超えても解除ができない状態の者に対しては,当該保護観察処分の決定をした家庭裁判所の意見を聴いて,交通事犯で通常の保護観察処分に付された者と同様の処遇が行われる。
最近3年間に実施した集団処遇の回数,参加延べ人員及び1回当たりの参加人員は,III-56表のとおりであり,昭和60年は,実施回数では4,537回,参加延べ人員では8万834人,1回当たりの参加人員では17.8人と,前年と比べ実施回数で4.8%,参加延べ人員で5.3%それぞれ増加している。
III-56表 交通短期保護観察少年に対する集団処遇実施状況