我が国の人口構成の高齢化には,著しいものがある。I-56表は,高齢者(通常65歳以上の者をいうことが多いが,本節では統計上の制約から60歳以上の者をいう。)人口の推移を示したものであるが,高齢者数は,一貫して増加し続けており,昭和60年では国勢調査抽出速報結果によると,1,778万2,000人で,総人口に対する高齢者数の比率(高齢者比)は,14.7%となっている。これは,30年前の724万4,000人,8.1%に比べると,高齢者数で2.5倍,高齢者比で6.6ポイント増,10年前の1,314万9,000人,11.7%に比べると,高齢者数で1.4倍,高齢者比で3.0ポイント増である。
I-56表 高齢者人口の推移
こうした人口構成の高齢化に対応して,近年,様々な分野において,定年年齢の引上げ,雇用の促進等をはじめとして,高齢者の能力に応じた就業を開拓したり,社会的活動に参加する機会を確保するための諸施策が進められるなど,高齢者と社会のかかわりは一層拡大しつつある。総務庁統計局の「労働力調査年報」によると,60歳以上の高齢就業者数は,昭和60年の推計では569万人で,10年前の480万人に比べ1.2倍となっているほか,警察庁交通局の調査によると,60歳以上の運転免許保有者数も年々増加し,60年では338万7,619人で,10年前の116万4,332人に比べ2.9倍となっているなど,高齢者は,社会における働き手としての位置の重要部分を占めるに至っており,この傾向はますます高まるものと予想される。本節では,このような高齢者について,その犯罪の動向と各刑事処遇段階における処遇の実情を,概観することとする。