暴力追放の広範な国民世論と厳しい取締りにもかかわらず,暴力団は依然として根強くその勢力を維持し,市民生活に大きな不安を与えている。
最近5年間における暴力団の勢力の推移を団体数及び構成員数で見ると,I-32表のとおりである。暴力団は,昭和38年に団体数5,216団体,構成員数18万4,091人と頂点に達したが,その後の取締り強化などにより,減少傾向を示している。60年末現在における暴力団は,団体数で2,226団体,構成員数で9万3,514人となり,前年に比べて団体数で52団体(2.3%)減,構成員数で396人(0.4%)減となっている。また,いわゆる広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)は,60年末では,団体数で1,817団体,構成員数で5万6,390人で,前年に比べて8団体(0.4%)減,構成員数で1,150人(2.1%)増となっている。さらに,特に大規模な広域暴力団(広域暴力団のうち,構成員数の多い上位3組織)に限って見ると,団体数で722団体,構成員数で2万3,198人となっており,前年に比べて団体数で37団体(5.4%)増,構成員数で2,069人(9.8%)増となる。
暴力団全体の団体数,構成員数が減少しているにもかかわらず,広域暴力団や特に大規模な広域暴力団の全体に占める割合は,団体数で81.6%,32.4%,構成員数で60.3%,24.8%となっており,前年に比べて,団体数で1.5ポイント,2.3ポイント,構成員数で1.5ポイント,2.3ポイントとそれぞれ増加している。このことは広域暴力団,特に大規模な広域暴力団の寡占化傾向が,一層強まっていることを示している。
I-32表 暴力団の団体数及び構成員数
こうした情勢下にあって,暴力団の連合化,系列化等の勢力拡大をめぐる組織間の対立抗争事件は,依然として各地に発生し,地域社会に大きな不安をもたらしている。
I-33表は,最近5年間における暴力団相互の対立抗争事件を見たものである。昭和60年に発生した対立抗争事件は,24件293回で,前年に比べ事件数は5件減少したが,回数は184回増加し,前年の約2.7倍となっている。また,抗争事件の発生回数のうち,銃器を使用した回数は246回で,前年に比べて約3.6倍と大幅に増加している。対立抗争による死者は32人(前年6人),負傷者は79人(同45人)となっており,抗争の激化が注目される。
I-33表 暴力団対立抗争事件の発生状況
I-34表 暴力団関係者からのけん銃押収数
最近5年間の暴力団関係者から押収したけん銃の種類別押収数は,I-34表のとおりである。昭和60年のけん銃の押収数は,前年に比べて38丁増加して1,767丁となり,過去5年間の最高となっている。これらのうち,真正けん銃の多くは海外から密輸入されたものである。60年における銃器使用回数(対立抗争による分を含む。)は,326回で,前年に比べ187回増加し,最近の10年間では最高を示している。また,これによる死者は44人(前年18人),負傷者96人(同54人)と急増している。このように最近の暴力団には,対立抗争の激化,武装化,凶悪化等の著しい動向がみられるので,今後とも十分な警戒を要する。
暴力団の資金源としては,風俗営業,興行,金融業,土木建築業など一応合法的事業といい得るものもあるが,主要なものは依然として覚せい剤の密売,恐喝,賭博,売春,のみ行為等の非合法なものである。特に,覚せい剤については,ばく大な利益が得られるため,組織ぐるみで密輸入,密売に当たっている暴力団が少なくない。
その他,最近においては,暴力団組織の威嚇力を背景にした交通事故の示談,金銭消費貸借,売掛債権などの金銭の取立てに絡む民事介入暴力事犯が増加し,不法利得獲得のために,様々な手口を用い,かつ,知能犯化の傾向をますます強めており,その動向にも十分な警戒を払う必要がある。