昭和26年以降における毒物及び劇物取締法違反を除く薬物事犯の警察等による検挙状況を見ると,I-17表のとおりである。
戦後の我が国における薬物事犯の推移について見ると,三つの顕著な流行期が認められる。第一期は,昭和29年を頂点とする覚せい剤取締法違反の激増期である。覚せい剤の濫用は,第二次大戦後の混乱した社会情勢を背景に急速にまん延し,29年には検挙件数5万3,221件,検挙人員5万5,664人を数えるに至ったが,法改正による罰則の強化,徹底した検挙と処理,中毒者に対する入院措置の導入,覚せい剤の害毒に関する啓発活動の効果などによって,急激に減少し,鎮静化した。第二期は,ヘロインを中心とする麻薬取締法違反の増加であり,38年には検挙件数2,135件,検挙人員2,571人を数えるに至ったが,第一期同様の諸対策が実施された結果,39年以降急速に減少した。第三期は,45年以降の覚せい剤取締法違反の再度の激増期であり,覚せい剤事犯の第二の流行期とも呼ばれている。
今次の覚せい剤事犯の流行は,第一の流行期と比べてその様相を異にし,10余年を経過した現在に至ってもなお高い水準を維持し続けている。その要因としては,主たる供給源が海外にあり,大規模かつ組織的な密輸入が行われていること,覚せい剤の取引を重要な資金源とする暴力団が,密輸入,密売組織等の流通ルートを支配し,更により多くの利得を目指して濫用者の増大を図っていること,及び,近年における享楽的な社会風潮が,一般国民の薬物に対する警戒心を薄れさせ,逆に,刺激を求める人々の安易な興味の対象となっていることなどが挙げられる。
I-17表 薬物事犯の検挙状況