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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第4章 

第4章 犯罪者処遇への市民参加

 犯罪者処遇の究極の目的は,犯罪者の円滑な社会復帰と速やかな改善更生にある。我が国の処遇関係諸機関は,この目的を実現するために,犯罪者の社会生活への適応能力を育成,助長し,改善更生への意欲を喚起すべく様々な努力と工夫を繰り返している。しかし,犯罪者の社会復帰や更生についての市民の理解と協力がなければ,犯罪者の努力のみでは社会への適応に失敗する場合が少なくなく,関係諸機関の努力は無に帰することにもなりかねない。受入態勢のない社会での犯罪者の改善更生は極めて至難であり,関係諸機関と市民が共同して,更生への暖かい援助や雰囲気作りをするなど,官民一体となった処遇がなされることによって,初めて犯罪者の円滑な社会復帰と社会への再適応が現実のものとなるのである。
 ところで,我が国においては,古くから犯罪者の処遇に様々な形で市民参加が行われてきた事実がある。明治時代には民間人の手になる釈放者保護団体が多数設立されたほか,大正時代には民間篤志家による嘱託少年保護司の制度が定められるなどして,官民一体の形で処遇が行われてきたのである。そして今や,各種の市民参加は犯罪者処遇にとって不可欠のものと考えられている。我が国の犯罪発生率は欧米諸国に比して低いといわれているが,その理由の一つに,市民の犯罪者処遇と犯罪予防活動への幅広い積極的な参加があるという事実をあげないわけにはいかないであろう。
 この市民の処遇等への参加は,ボランティアとして行われ,無報酬である上に極めて献身的に行われているが,世間一般には,その有用性と労苦について,必ずしも十分知られているとはいい難い実情にある。
 そこで,本章では,警察,矯正,更生保護の各段階におけるこれら市民参加の実情を取りまとめて紹介することとする。