IV-53表は,保護観察新規受理人員総数の中に占める覚せい剤事犯者数とその比率を見たものである。覚せい剤事犯者の占める比率は,仮出獄者では,昭和54年の12.8%から58年の26.0%に,また,保護観察付執行猶予者では,同じ期間に18.9%から24.6%に達し,両者とも,新規受理人員のうち覚せい剤事犯者がほぼ4分の1を占めるに至っている。なお,この比率は,前記4で述べた新受刑者中に占める覚せい剤事犯者の比率とほぼ同じである。
覚せい剤事犯の仮出獄者と保護観察付執行猶予者を比べて見ると,昭和57年以前は後者の比率が前者の比率よりも高かったのに対し,58年になるとこれが逆転している。
このような特徴を有する覚せい剤事犯保護観察対象者に対して,どのような処遇が実施されているのであろうか。
IV-53表 保護観察新規受理人員中の覚せい剤事犯者数(昭和54年〜58年)
IV-54表 覚せい剤事犯者に対する保護観察処遇の実施状況(昭和58年)
IV-54表は,昭和58年における覚せい剤事犯保護観察対象者に対する処遇の実施状況を見たものである。処遇上特に力点を置いている事項をあげると,家族又は引受人,その他関係者との面接の強化やファミリー・ケースワーク等による家族調整の実施が一番多く (54.0%),次いで,公共職業安走所との連携や協力雇用主の開拓,保護観察官面接による就業の援助(42.0%),保護観察官面接による暴力団組織からの離脱指導(42,O%),保護観察所又は定期駐在場所への出頭指示や往訪等による積極的な面接指導(40.0%)などの順となっている。なお,IV-54表に掲げられているもののほか,覚ぜい剤追放運動に関して地方自治体等が行う広報活動や集会への参加・協力及び講師,助言者としての派遣並びに薬物乱用対策推進本部の本部員,推進員としての活動,覚せい剤に関する知識・処遇技術の向上を目的とした保護司に対する指導・訓練の強化,「社会を明るくする運動」等を通じての保護司,更生保護婦人会員,BBS会員等による覚せい剤追放地域キャンペーンなども行われている。
IV-55表 覚せい剤事犯保護観察終了者の保護観察中における再犯率(昭和54年〜58年)
IV-56表 覚せい剤事犯保護観察終了者の保護観察中における再犯のうち同一事犯反復者数(昭和54年〜58年)
IV-55表は,覚せい剤事犯保護観察終了者のうち,その保護観察期間中に何らかの新たな犯罪を起こしたことにより,刑事処分(起訴猶予を含む。)を受けた者の比率(以下「再犯率」という。)を,保護観察終了者総数の比率と対比して見たものである。仮出獄者では,各年とも覚せい剤事犯者の再犯率が総数の再犯率よりも低いほか,両者ともに逐年低下傾向にある。一方,保護観察付執行猶予者では,各年とも覚せい剤事犯者の再犯率が総数の再犯率よりも高いほか,総数の再犯率が36%ないし38%台を上下しているのに対し,覚せい剤事犯者の再犯率は昭和57年のわずかな上昇を除いて低下傾向にある。なお,仮出獄者の再犯率は,保護観察付執行猶予者の再犯率が30%ないし50%台であるのに対し,極めて低く1%ないし2%台となっているが,これは,仮出獄者の保護観察期間が概して短いためである。
IV-56表は,前述の再犯者について,再犯時の罪名も覚せい剤事犯である者の占める比率を示したものである。仮出獄者,保護観察付執行猶予者のいずれにおいてもその比率はかなり高いが,昭和58年を見ると,前年と比べて両者とも低下している。
以上,保護観察を受ける覚せい剤事犯者は,その比率が逐年上昇しているが,一方,再犯率は概して徐々に減少する傾向にあるといえる。