IV-48表は,新受刑者総数の中に占める覚せい剤事犯者数とその比率を男女別に見たものである。覚ぜい剤事犯者の占める比率は,総数では,昭和54年の19.5%から逐年上昇して,58年には26.1%と新受刑者中のほぼ4分の1を占めるに至っている。これを男女別に見ると,男子では18.8%から25.0%に,また,女子ではやや起伏があるものの42.0%から52.1%にそれぞれ上昇し,加えて,各年とも女子における比率が男子における比率よりも高く,56年以降,女子における比率は50%以上を占めるに至っている。
IV-49表は,覚せい剤事犯新受刑者のうち,再入者の占める比率(以下「再入率」という。)を,新受刑者総数における同じ比率と対比して男女別に見たものである。再入率は,総数では昭和54年の56.8%から58年の59.3%と2.5ポイントしか上昇していないのに対し,覚せい剤事犯者では同じ期間に53.2%から60.3%と7.1ポイント上昇し,しかも,57年以前までは総数における再入率が覚せい剤事犯者における再入率より高かったのに対し,58年に至るとこれが逆転している。また,女子の覚せい剤事犯者については,総数や男子に比べて,比率そのものは低いものの,54年の14.0%から58年の32.5%に18.5ポイントも上昇していることが注目される。
IV-48表 新受刑者中の覚せい剤事犯者数(昭和54年〜58年)
IV-49表 覚せい剤事犯新受刑者のうち再入者の占める比率(昭和54年〜58年)
IV-50表は,前述の再入者のうち,前刑入所時の罪名も覚せい剤事犯であった者(以下「同一事犯反復者」という。)の人員とその比率を,男女別に見たものである。同一事犯反復者の占める比率は逐年上昇し,総数では昭和54年の35.9%から58年には58.8%に,また,女子では同じ期間に64.0%から90.3%に達し,特に女子における比率の高いことが目立っている。
以上,行刑施設に収容される覚せい剤事犯者は,逐年その比率が上昇し,再犯傾向も強くなり,とりわけ女子において同一事犯反復者の比率が高くなっているといえる。
覚せい剤事犯初入受刑者のうち,執行猶予歴を有する者の占める比率を初人受刑者総数における同じ比率と対比して男女別に見たのがIV-51表である。これによれば,執行猶予歴を有する者は,昭和54年以降5年間に,総数では53%ないし54%台を上下しているのに対し,覚せい剤事犯者では54年の66.9%から58年には69.7%に上昇し,特に女子においてこの傾向が強く,54年の61.2%から起伏はあるものの58年には77.6%にまで達している。
IV-50表 覚せい剤事犯再入受刑者中の同一事犯反復者数(昭和54年〜58年)
IV-51表 覚せい剤事犯初入受刑者のうち執行猶予歴のある者の占める比率(昭和54年〜58年)
このような特徴を有する覚せい剤事犯受刑者に対して,行刑施設ではどのような処遇が実施されているのであろうか。全国の行刑施設においては,交通事犯者のみを収容している市原刑務所や,一部の拘置所など,覚せい剤事犯者を全く収容していないか又は極めてわずかしか収容していない施設を除いて,ほとんどの施設で覚せい剤事犯者に対する特別な処遇が実施されている。IV-52表は,全国74か所の行刑施設について,昭和58年8月末現在で覚せい剤事犯者に対して特別に実施されている処遇を実施時期,指導形態,集団指導の方法別に見たものである。まず,実施時期では中間期(73.0%),入所教育時(62.2%),出所教育時(59.5%)の順,また,指導形態では小集団指導(83.8%),個別指導(20.3%),全体指導(18.9%)の順となっている。次いで,集団指導の方法について,主なものを見ると,覚せい剤使用に関し,動機,症状,反省,断薬方法などを発表させたり,新聞記事をテキストにしたりして話し合いをさせる討議(62.2%),VTRの使用(58.1%),薬理作用,中毒の実態等に関する部外講師による講話・講義(55.4%),手記,感想文を書かせる作文(55.4%)などがある。
IV-52表 覚せい剤事犯受刑者に対する特別な処遇の実施状況(昭和58年8月31日現在)