前記調査対象とした834人の保護観察付執行猶予に付された者(以下「保護観察付執行猶予者」という。)について,判決確定後3年以内の再犯率及び再犯期間を昭和55年の処分罪名別に見たのがIV-10表である。
再犯率は,総数では35.4%で,単純執行猶予者に比べて13.9ポイント高くなっている。再犯率を罪名別に見ると,覚せい剤取締法違反が43.0%,窃盗が37.5%と高く,反対に,強姦は20.8%と比較的低率である。調査対象者数は少ないが,殺人及び放火には再犯者がない。このように凶悪犯罪において再犯率が低率であったり再犯者数が皆無であることの理由としては,この種の事犯者で保護観察付執行猶予の言渡しを受けた者の中には,一過性の犯罪であるなど犯罪者の資質に問題が少なく,これが適切な社会内処遇と相まって再犯が防止されていることが考えられる。
再犯期間について見ると,総数では,1年以内に15.8%,2年以内に12.2%,3年以内に7.3%の者がそれぞれ再犯に陥っており,時の経過とともに再犯率は逓減している。これを罪名別に見ると,1年以内の再犯率は,覚せい剤取締法違反(18.4%),窃盗(18.2%)及び調査対象者数は少ないが詐欺(23.8%)等が高く,反対に,偽造(0.0%),強姦(4.2%)が低い。覚せい剤取締法違反及び窃盗は,1年を超え2年以内に再犯処分を受ける者も多く,それぞれ15.7%,12.7%を占めている。窃盗,覚せい剤取締法違反及び詐欺等の事犯者に対しては,処遇選択における周到な配慮と,初期段階における保護観察の充実の必要性を示唆しているものと思われる。
IV-11表は,前記再犯者について罪名別に再犯罪名を見たものである。昭オロ55年の処分罪名と再犯罪名との間に強い関係が見られるのは,窃盗及び覚せい剤取締法違反で,再犯罪名が同一であるものは,前者で66.9%,後者で62.5%となっており,また,調査対象者数は少ないものの,詐欺も50.0%で高い。反対に,再犯に異種罪名の占める比率が高いのは,【傷害の66.7%で,また,再犯者数は少ないものの,強姦,恐喝,暴力行為等処罰法違反等も高い。
IV-10表 昭和55年保護観察付執行猶予者の再犯率及び再犯期間
IV-11表 昭和55年保護観察付執行猶予者の再犯罪名
IV-12表 保護観察付執行猶予者の罪名別保護観察中の再犯状況(昭和58年)
以上の罪名別再犯状況からすれば,窃盗や覚せい剤取締法違反等事犯者は再犯率が高く,将来常習者になるおそれのある者も相当数含まれており,この種の犯罪者に対する更生措置をより一層充実強化する必要のあることを窺わせる。
IV-12表は,昭和58年中に保護観察を終了した保護観察付執行猶予者について,その保護観察中における再犯状況を罪名別に見たものである。保護観察中の再犯率は,覚せい剤取締法違反が50.6%,窃盗が44.2%となっていて共に高い。さらに,再犯処分別人員を見ると,再犯者2,635人のうち,実刑2,149人(81.6%),執行猶予15人(0.6%),罰金・拘留・科料400人(15.2%),起訴猶予59人(2.2%),その他12人(0.5%)となっていて,実刑の比率が極めて高い。なお,窃盗では,再犯者1,049人のうち実刑が910人(86.7%),覚せい剤取締法違反では,再犯者860人のうち実刑が733人(85.2%)をそれぞれ占めていて,総数の実刑率の81.6%に比べて,いずれも高い比率を示している。
次に,IV-13表は,保護観察付執行猶予者の執行猶予取消し状況を,受理後第3年目までについて見たものである。保護観察付執行猶予者のうち,受理当年に3.3%ないし4.2%の者が,第2年目に12.4%ないし13.8%の者が,また,第3年目に8.8%ないし9.3%の者がそれぞれ執行猶予を取り消されており,結局,第3年目までに受理総数の約4分の1の者が取り消されている。
IV-13表 保護観察付執行猶予者の執行猶予取消し状況(昭和54年〜58年)
このような高い再犯率や取消率の保護観察付執行猶予者について,その特性の一端を知る方法として,前歴関係を見ることとする。IV-14表は,昭和55年に新たに受理した保護観察付執行猶予者について,処分歴別構成比を見たものである。まず,保護処分歴について見ると,処分歴のある者の占める比率は3割を超えるが,その内訳を見ると,高い比率を示すのは,保護観察歴の16.4%及び少年院送致歴の9.4%である。次に,刑事処分歴について見ると,処分歴のある者の占める比率は74.3%と高く,その内訳を見ると,執行猶予歴が最も高くて39。7%,次いで,罰金・拘留・科料の24。5%,懲役又は禁錮の実刑歴の8,4%の順となっている。
IV-14表 保護観察付執行猶予新規受理人員の処分歴(昭和55年)
このような保護観察付執行猶予者に対しては,保護観察所が執行猶予者保護観察法その他の法令に基づいて処遇に当たっているが,保護観察期間中にその行動を律するものとして課される遵守事項は,他の種類の保護観察対象者の場合と異なり,法定の遵守事項として,[1]善行を保持すること,[2]住居を移転し又は1か月以上の旅行をするときは,あらかじめ保護観察所の長に届け出ること,のわずか2項目が規定されているのみで,この法律の枠組の中で,更生のための指導や援助がなされなければならない。さらに,保護観察付執行猶予者に対する保護観察は,判決の確定によって初めて開始できるため,判決の言渡しがあって身柄が釈放されてから判決が確定するまでの間(上訴期間14日以内)に,本人の緊張がし緩したり,生活条件が悪化するなどして,当初における有効な保護観察活動が阻害される場合が少なくない。このような障害を克服するため,保護観察所の長は,判決が確定する以前においても,本人の申出に基づいて環境その他の状態の調整(執行猶予者保護観察法4条)を図り,更生保護の措置(更生緊急保護法2条)をとるなど,本人の保護観察への円滑な導入と再犯防止を図っている。判決確定後における保護観察の実務については,第2編第4章第2節において述べているとおりである。しかし,このような保護観察を実施しても,再犯に陥り執行猶予を取り消されて保護観察が中途で終結する者も多く,他方,保護観察の実効が上がって社会復帰に成功する者も少なくない。ちなみに,昭和58年に保護観察を終了した保護観察付執行猶予者8,109人のうち,成績が良好なために仮解除の決定を受けていた者は1,583人(19.5%),成績良好で保護観察期間が満了した者は1,597人(19.7%)である。
保護観察付執行猶予者の再犯を防止し,これに対する刑事処遇の合理的運用を図るためには,本人の素質,環境等を十分に踏まえ,保護観察による指導や援助の必要性とこれによる改善更生の見込みを中心に,適切な選択がなされることが肝要である。特に,調査対象の保護観察付執行猶予者の中で極めて再犯率が高い覚せい剤取締法違反事犯者,窃盗事犯者等については,社会内よりもむしろ施設内において処遇されるべき者が少なくないことが推察される。このため,犯罪者処遇の実務において,裁判所,検察庁,保護観察所等の関係諸機関が,日ごろから努めて相互に緊密な連携を保ち,この種の処遇対象者に対する保護観察の一層の充実・強化を図ることが肝要と思われる。