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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/3 

3 単純執行猶予

 前記調査対象とした3,348人の単純執行猶予者について,判決確定後3年以内の再犯率及び再犯期間を昭和55年の処分罪名別に見たものがIV-8表である。再犯率を見ると,注目されるのが,覚せい剤取締法違反の33.9%,窃盗の28.2%,傷害の21.6%である。逆に,再犯率が低いものについて見ると,売春防止法違反の2.2%,殺人の2.7%,横領の6.3%,競馬法違反の6.4%等となる。売春防止法違反に,営業犯的なものが多いことは既に指摘したとおりであるが,競馬法違反についても,公判請求される事案には,いわゆるのみ行為(勝馬投票類似行為の胴元となる行為)が多く,やはり営業犯的なものが中心である。営業犯的である売春防止法違反や競馬法違反について,単純執行猶予者の再犯率がこのように低いことは注目されよう。殺人について,刑の執行が猶予されるのは,偶発的殺意による場合や情状を特に酌量すべき特異な事犯の場合であって,元来調査対象者の再犯傾向が低いときに限られるため,再犯率も低いものと思われる。横領については,他人の物の占有者という立場に立ったことによって触発される犯罪であり,犯罪傾向がそれほど強くない者によって敢行されることが多く,したがって,単純執行猶予付判決で十分再犯の防止効果を上げているものといえよう。
 同表により,再犯期間を見ると,既に総説で指摘したように,再犯に至る危険性は処遇実施後2年以内が高く,これを超えると再犯率は低下するということがいえる。この傾向に反しているのが,住居侵入,暴力行為等処罰法違反,自転車競技法違反等であるが,いずれも調査対象者数が少なく,これのみをもって何らかの結論を出すことは困難と思われる。
 IV-9表は,上記再犯者について罪名別に再犯罪名を見たものである。昭和55年の処分罪名と再犯罪名との関係が強く認められるもので注目されるのは,覚せい剤取締法違反,窃盗であり,罪名一致率はそれぞれ61.6%,58.8%となっている。傷害について見ると,同一罪名の再犯に至っている者は32.1%であるが,同種罪名のものを合わせると50.0%に達し,罰金刑等のところで述べたように,ここでも粗暴犯としての再犯傾向の強さを示している。

IV-9表 昭和55年単純執行猶予者の再犯罪名