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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/5 

5 仮釈放

 前記調査対象とした1,324人の仮釈放者について,仮釈放後3年以内の再犯率及び再犯期間を昭和55年の処分罪名別に見たのがIV-15表である。再犯率は,総数では44.5%で,保護観察付執行猶予者に比べて9.1ポイント高く,満期釈放者に比べて12.7ポイント低い。主要罪名別にこれを見ると,再犯率が高いのは,窃盗の57.5%,覚せい剤取締法違反の55.7%,強盗の37.3%,傷害の35.1%,調査対象者数は少ないが暴力行為等処罰法違反の65.2%,恐喝の47.2%等である。反対に再犯率が低いのは,殺人の8.2%,偽造の12.1%,横領の16.7%,詐欺の23.2%,強姦の28.1%である。
 なお,これまでの各刑事処遇段階においては,覚せい剤取締法違反事犯者の再犯率が窃盗事犯者に比べて高率であるのに対して,仮釈放の段階に至って再犯率が逆転していることが注目される。
 再犯期間について見ると,総数では,1年以内に16.0%,2年以内に19.1%,3年以内に9.4%の者がそれぞれ再犯に陥っている。これを他の刑事処遇対象者と比べると,6月以内に再犯に陥っている者の比率は,単純執行猶予者で4.2%,保護観察付執行猶予者で6.2%,仮釈放者で4.9%,満期釈放者で9.9%となっている。仮釈放者の比率が比較的低い理由として,仮釈放者は,矯正施設収容中に矯正教育を受けるほか,帰住予定先の環境について調整が行われ,さらに,仮釈放後においても保護観察による指導や援助を受け,仮釈放当初における再犯に歯止めがかけられたことが考えられる。

IV-15表 昭和55年仮釈放者の再犯率及び再犯期間

IV-16表 昭和55年仮釈放者の再犯罪名

 罪名別に再犯期間を見ると,1年以内の再犯の占める比率が高いのは,暴力行為等処罰法違反(30.4%),窃盗(24.7%)で,反対に低いのは,殺人(1.6%),詐欺(6.0%),強盗(10.5%)である。
 IV-16表は,前記再犯者について,罪名別に再犯罪名を見たものである。
 昭和55年の処分罪名と再犯罪名との間に強い関係が見られるのは,窃盗,覚せい剤取締法違反,詐欺である。再犯罪名が同一であるものは,窃盗で75.5%,覚ぜい剤取締法違反で69.2%,詐欺で60.9%となっており,いずれも同一犯罪を反復する度合いが強い。反対に,再犯に異種罪名の占める比率が高いのは,再犯者数は少ないが,強姦の100.0%,強盗の96.0%,殺人の80.0%である。
 以上見てきたように,仮釈放者についても,窃盗,覚せい剤取締法違反などの事犯者の中には,再犯傾向が極めて強く,しかも同一犯罪を累行する者の少なくないことが知られる。
 このような傾向と関連して,以下保護観察と再犯との関係について更に検討を加えることとする。IV-17表は,昭和55年に新規に受理した仮釈放者について,刑務所入所度数別保護観察期間を見たものである。仮釈放者に対して保護観察が実施される期間は,全体的に見て短期の者が極めて多く,しかも入所度数の多い者ほど短期の占める率が高くなる傾向にある。このような事情から,仮釈放者の3年以内の再犯率は高いが,保護観察期間中における再犯率は低い数値を示している。昭和58年中に保護観察が経了した仮釈放者の保護観察期間中における再犯状況を概観すると,業過及び道路交通法違反を除く仮釈放者総数1万4,367人のうち,再犯者は297人(2.1%)にすぎない。これを主要罪名別に見ると,放火は161人中10人(6.2%),強盗は512人中27人(5.3%),殺人は549人中19人(3.5%),窃盗は5,191人中140人(2.7%),強姦は370人中9人(2.4%),恐喝は458人中10人(2.2%),詐欺は1,100人中17人(1.5%),傷害は669人中9人(1.3%),覚せい剤取締法違反は4,075人中40人(1.0%)となっている。保護観察期間中における罪名別再犯状況が,電算化犯歴調査の3年以内における再犯状況と異なる傾向にあるのは,放火,強盗,殺人,強姦等の凶悪事犯仮釈放者が,概して刑期が長く,したがって,保護観察期間も長くなる傾向にあることから,この間に再犯に陥る機会が大きくなることによるものとも考えられる。

IV-17表 仮出獄者の入所度数別保護観察期間(昭和55年)

 仮釈放者の特性の一端を知るために,その前歴関係を見ることとする。IV-18表は,昭和55年に新たに受理した仮釈放者について処分歴別構成比を見たものである。保護処分歴では,処分歴のある者の占める比率は30.2%で,この中で,少年院送致(15.5%),保護観察(11.8%)が比較的高い率を示している。刑事処分歴では,処分歴のある者の占める比率は85.8%と極めて高く,その内訳を見ると,実刑が最も高くて43.9%,次いで,執行猶予の28.6%,罰金・拘留・科料の13.0%の順となっている。仮釈放者の処分歴を保護観察付執行猶予者のそれと比べると,当然のことながら,仮釈放者では,少年院送致歴や実刑歴など矯正施設で処遇を受けた者の占める率が高い。
 仮釈放者に対しては,犯罪者予防更生法その他の法令等に基づいて,第2編第4章第2節で述べた保護観察が実施されている。その結果は,前述のように,保護観察期間中における成績で評価すると,概して良好であり,昭和54年からの5年間について見ても,保護観察を終了した仮釈放者で保護観察中に再度の犯罪により刑事処分(起訴猶予を含む。)を受けた者は1.8%ないし2.9%にすぎず,また,仮釈放を取り消された者も5.0%ないし5.6%にとどまっている。しかし,前述の調査で明らかなように,保護観察終了後に及ぶより長期的な成行きは必ずしも良好といえず,3年以内までに44.5%の者が,何らかの刑事処分を受けている。保護観察所では,仮釈放者に対して有効な保護観察を行うために十分な期間が確保されることが望ましいが,一般に,刑期の短い者が多いことや,再犯傾向が強く問題性をはらむ受刑者ほど慎重な仮釈放審理がなされる等の関係もあって,保護観察期間の短い者が極めて多く,仮釈放者の個人的,環境的状況から見て再犯の危険が明らかに予測されても,処遇の実を上げ得ないままこれを打ち切らなければならない。
 このため,人格,環境等の面で多くの問題をかかえている仮釈放者については,処遇期間や処遇内容等の課題を含め,刑事処遇全体の運用の中で再犯防止のための施策が検討される必要があるものと思われる。

1V-18表 仮出獄新規受理人員の処分歴(昭和55年)