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 昭和60年版 犯罪白書 第1編/第2章/第3節/4 

4 シンナー等有機溶剤濫用事犯

 我が国においては,昭和35年ころから青少年による睡眠薬の濫用が増加した。これに対して38年に規制が強化されたため,睡眠薬に代わって40年代初めころからシンナー等の有機溶剤が濫用されるようになった。シンナー等の濫用による少年の補導人員は,43年には2万812人に上り,46年には4万9,587人に達した。そこで,47年に,毒物及び劇物取締法が改正され,それまでに直接的な法規制の対象とならなかった「酢酸エチル,トルエン又はメタノールを含むシンナー及び接着剤」の濫用行為,知情販売行為等が,新たに法規制の対象とされることとなった。
 I-33表は,昭和47年以降のシンナー等の有機溶剤の濫用による検挙・補導人員を見たものである。少年の検挙・補導人員は,48年にはいったん減少したあと,再び増加傾向を示して,58年には5万1,383人と最高の数に達したが,59年は,4,747人(9.2%)減少して4万6,636人となっているものの,依然として楽観を許さない状況にあると言えよう。

I-33表 シンナー等濫用者の検挙・補導人員(昭和47年〜59年)

 有機溶剤は,日常生活の中で容易に入手できるため,青少年によって濫用されやすく,かつ,その激用は,成長期にある青少年の心身の健康を害するだけでなく,毎年多数の死亡者を出すなど極めて危険であり,昭和59年においても,濫用による少年の死亡及び自殺者の合計は32人と,前年に比べて4人増加している(警察庁保安部の資料による。)。また,シンナー等有機溶剤の濫用は,他の犯罪や非行を誘発する原因ともなっており,さらに,覚せい剤使用へ移行する者も見られる。こうした事態を踏まえて,57年には法律の改正により更に罰則が強化され,シンナー等の有機溶剤をみだりに摂取・吸入し,又はこれらの目的で所持した者に対して,懲役刑が科されることとなった。59年においては,シンナー等濫用事犯による成人の検挙人員は6,033人で前年より835人減少したが,他面毒物及び劇物取締法違反による起訴人員のうち,公判請求された者は,前年の832人(公判請求率14.0%)から,908人(同15。4%)に増加している。この種の事犯に対しては今後とも厳正かつ適切な対応が必要とされよう。